AIビジネスデザイナーの石角友愛氏がトップ経営者や専門家と、具体的かつグローバルな議論を展開する連載の第2回目。9月1日に発足したデジタル庁の平井卓也大臣が語る、日本の価値基準におけるデジタル化の進め方を指すコンセプト「デジ道(どう)」とは何か。平井大臣×石角友愛氏の対談の後編。
<前編はこちら>
誰一人取り残さない“デジ道”の精神
石角 私が、シリコンバレーの最先端のAI技術やDXの考え方を、日本企業の、特にCTOがいないような中小企業に導入しようとすると「日本の今後はどうなるんだ」などと聞かれます。大臣は、デジタル化の後進国だからこそ、そのアドバンテージを使って前進しようということをよく話されていますが、“日本のアドバンテージ”というのは、どのように考えていけばいいのでしょうか?
平井大臣 日本の“出遅れ”のアドバンテージを最大化するために何が必要かということを考えたときに、米国や欧州、中国のデジタル化を単にまねしてはいけないと思っています。日本のデジタル化というのは一体何なのかと突き詰めていったところで思い付いた言葉が「デジ道」(でじどう)です。
石角 デジ道、面白いですね。具体的に何を指しているのでしょうか?
平井大臣 デジ道は、いわゆる「武士道」になぞらえたもので、日本の価値基準におけるデジタル化の進め方を指すコンセプトです。慶応義塾大学の村井純先生と度々議論を重ねているのですが、例えば「No one left behind」(誰一人取り残さない)、つまり格差を作らないという前提のもと、誰にでもアクセシビリティーがある状態を目指しています。
これは一見、きれいごとに聞こえてしまうかもしれません。海外のデジタル化では、そこから置いていかれる人たちが一定数存在します。米国では、GAFAを中心にシリコンバレーの優れた企業間だけの繁栄モデルであったり、中国にしても国家の監視下によるモデルであったり。実はデジタル化の恩恵を享受してない人たちは農村部などにたくさんいるのです。
石角 確かに、インターネットを使わない、あるいは使えない人がいます。
平井大臣 日本のデジタル化は、誰一人取り残さない形を本気で進めていこうとしています。困っている人がいたら助けることとセットでデジタル化を整備していきます。米国型や中国型とは全く違います。お年寄りから、地方に住んでいる人まで、全ての国民にメリットが行き届くようにするというのが我々の目指すデジタル化なのです。
石角 素晴らしいビジョンですね。
平井大臣 ただ、実際に国民全員がデジタルを使いこなすことは難しい。例えばスマートフォンを国民全員が持つということは、無理な話です。
石角 確かに、私の両親もまだ使いこなせていません。
平井大臣 だとしたら、ご両親がやりたいことを、スマートフォンをお持ちの方が助ける必要があるわけです。つまり、誰一人取り残さないデジタル化というのは、デジタルの空間だけでは完結しません。困っている人と信頼関係を築いた上でフォローをするといった、いわゆるハイタッチなサポートとのセットで、日本のデジタル化をやっていきます。
石角 すごく大事なポイントだと思います。AIを日本企業に導入する際は、AIを開発する側が常に歩み寄らないといけないと私も考えています。より高度な技術だけを作っていればユーザーがついてくるというのはシリコンバレーの考え方ですが、そうではなくて、やはりAIを作っている側が分からない側に歩み寄る姿勢が大事です。そのためには「AIビジネスデザイナー」という職種が必要だと感じるのです。AIやDXの技術論で話をするのではなく、なぜそれがあなたにとって大事なのかという、“ユーザーの私事”に落とし込むための語り口で話をすることが重要だと思います。
平井大臣 おっしゃる通りです。結局、AIのテクノロジーを全ての人が理解できるわけではありません。重要なことは、ユーザーが困っていることや、やりたいことを実現するために、AIがどう貢献するかです。AIを理解していない人にも、AIによってもたらされる幸せな空間やサービスを提供できたなら、それはものすごく素晴らしいことです。
石角 台湾の“天才デジタル担当大臣”ことオードリー・タン(唐鳳)政務委員も、「AIというのはアーティフィシャル・インテリジェンス(人工知能)ではなくて、アシスティブ・インテリジェンス(補助的知能)であるべきだ」と著書で語っています。少子高齢化が進む台湾では、スタートアップの若者(青)と年配者(銀)がコラボレーションしてイノベーションを行っていく「青銀共創」という取り組みが盛んです。
平井大臣 オードリー・タンさんがおっしゃっていることがまさに我々が目指すところです。アナログ空間を無視していては、デジタル化は成り立ちません。
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