
プロセスを見せることでどの程度受けるか予測できれば、どのくらい制作費をかけられるかが事前に分かる――。国際社会文化学者として韓国のエンターテインメントを研究しているカン・ハンナ氏が韓国エンタメ業界で進むプロセスエコノミーの現状と背景を語った。
製品やサービスの品質で差別化ができなくなる中、そのプロセス(過程)にある作り手の思いや試行錯誤に価値が生まれるプロセスエコノミーの時代になる――。書籍『プロセスエコノミー』著者の尾原和啓氏は、そのプロセスエコノミーが最も進んでいる分野として韓国のエンターテインメント業界を挙げる。そこで尾原氏が、国際社会文化学者のカン・ハンナ氏に韓国エンタメ業界でプロセスエコノミーがどのように進んでいるかを聞いた。
尾原和啓氏(以下、尾原) アウトプットである製品やサービスの品質が高止まりで差別化ができなくなり、いいものを出しただけではもうからない時代には、そのプロセスにある作り手の思いや試行錯誤に価値が生まれる。そこでプロセスそのものをマネタイズすることを含め、プロセスに軸足を移したビジネスがこれから価値を持つのではないかということで、『プロセスエコノミー』という本を出しました。
そういうアプローチが最も進んでいるのは、BTSに代表される韓国のエンターテインメントだと思っています。国際社会文化学者として韓国のエンタメを研究しており、BTSのアーミー(ファン)でもあるハンナさんにぜひともお話を伺いたいと思ってお声がけしました。
【第2回】 プロセスエコノミーは「ファンから」 フィルターバブルに注意
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どのくらいヒットするか、ある程度予測できる
カン・ハンナ氏(以下、カン) プロセスエコノミーの内容はすごく共感できる話で、韓国だけでなく全世界で見ても、今は誰もがコンテンツを発信できる時代ですよね。つまり、競争がすごく激しい。特に韓国のエンタメは10年くらい前からすでに競争が激しくなり、アウトプットでの差異化が難しくなった。その中で勝ち抜くために考えられたのが、プロセスをアピールしてプロセスからファンをつくっていくこと。競争が激しい領域では自然な流れだと思います。
尾原 韓国のエンタメ業界ではなぜそんなに早い段階からそのプロセスに光が当たり始めたのでしょうか。
カン 韓国も2010年くらいまでは完成品としての売り方がメインだったんですね。例えば、女性アイドルグループの「少女時代」であれば、新曲を出すタイミングくらいしか表に出なかったり、デビュー直前までメンバーのプロフィールも秘密だったり。神秘主義的なやり方でした。そのほうが盛り上がった時代でもあります。
それが、ライバルがすごく増えてきたときに、集客のリスクが大きな問題になったんです。アーティストだけでなくモノもコンテンツも、完成品を出してみるまでヒットするかどうか分からず、どの程度ヒットするかも予測できない。その中で、作っているプロセスを見せることでどの程度受けるか予測できれば、制作費をこのくらいまでかけても赤字にはならないといったことが事前に分かる。実はそこが一番大きなポイントだったんです。
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