
良いものを作るだけではモノが売れない――。プロセス(過程)から収益を得ることを提案する書籍『プロセスエコノミー』が話題だ。プロセスを公開することで、製品・サービスの信頼性を高めたり、コミュニティーを醸成したりして売り上げアップを図ることもできる。プロセスをどうマーケティングに生かせばよいのか。
「プロセスマーケティング」特集の第1回となる今回は、プロセスエコノミーの名付け親である連続起業家のけんすう(古川健介)氏と、書籍『プロセスエコノミー』の著者であるIT批評家の尾原和啓氏に、プロセスエコノミーの本質とマーケティングに生かす方法について聞いた。
アウトプットでは差が付かない時代に
プロセスエコノミーという言葉自体は、けんすう氏が2020年末にnoteで「『プロセス・エコノミー』が来そうな予感です」というタイトルで投稿したのがきっかけ。けんすう氏はクリエイター向けサービスを提供するアル代表取締役で、ハウツーサイト「nanapi」など学生時代から多くのネット企業や事業を立ち上げてきた連続起業家だ。
「前提として、アウトプットとしての製品やサービスが高いレベルで平準化していることが課題。ヒットチャートに上がる音楽はだいたいちゃんとしているし、どの店でご飯を食べてもだいたいおいしい。要は差がなくなってきている。さらにアウトプットの数もどんどん増えている中、比較して選ぶことが難しくなり、感情移入できるものが選ばれている。そういった流れの中で出てきたのが、プロセスを開示して作り手と使い手がつながるプロセスエコノミーの動き。クリエイターが生活のためにアルバイトをする代わりに創作プロセスを公開してそれに課金すれば、創作活動に集中することもできる」(けんすう氏)
けんすう氏によると、プロセスエコノミーの本質は大きく分けて2つある。1つ目は制作中の段階から見てもらい、共感してもらうことで、マーケティングとして作品の知名度を上げること。2つ目は、制作中の段階からマネタイズできることにより、使えるお金を増やすことができる「予算の革命」だという。
同氏はその代表的な例として、お笑い芸人で絵本作家としても活躍する西野亮廣氏が進行中のプロジェクトを公開しているオンラインサロンを挙げる。「マーケティングという側面もあるが、プロセス自体でも課金し、集まった資金で新しい企画をやるという流れをつくっている。例えば、50ページの絵本を制作しているプロセスでラフスケッチを1枚1万円で売ったら、50万円の売り上げになる。プロセスで課金することでアウトプットにより多くのお金をかけ、質を高めることもできる」
これまでもプロセスを開示する手法はあったが、あくまでプロセスを作品として、ショー的に見せることが多かった。アイドルのオーディション番組はコンテンツとして面白くなるようにプロセスを開示しているのがいい例だ。最近ではストリーミングでプロセスをありのまま公開することが増えているという。
例えば、けんすう氏が立ち上げた「00:00 Studio(フォーゼロスタジオ)」というクリエイターが創作プロセスをライブ配信するプラットフォームでは、キャラクターを描いている様子がずっと流れているものもある。
「パッケージ化されたコンテンツではなく、プロセスをありのまま公開する点が新しい。マーケティング戦略としていい部分を見せる段階が1.0、エシカル(倫理)やトレーサビリティー(生産履歴の追跡)などの観点から企業責任としてプロセスを見せる段階が2.0、一般の人を含めた個人がプロセスをありのまま公開するのが3.0。今は個人の物語に焦点が移っている」とけんすう氏はみる。
プロセスエコノミーは大手メーカーの活路にも
一方、尾原氏は、プロセスエコノミーが個人やスタートアップなどの小さな企業だけでなく、大手企業の活路にもなるという。
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