
工芸は今、どんな課題を抱えているだろうか。テクノロジーを取り入れることで生まれる可能性や工芸の未来とは──。それぞれ異なるアプローチで、作り手と買い手をつなごうと活動する3人が語った、工芸にまつわる今、そして未来の話。
――工芸にどう携わっていますか?
山田遊氏(以下、山田) 2013年に始めた「燕三条 工場の祭典」の全体監修をしています。普段バイヤーをしていると、工芸品は「高い」と言われがち。価格に納得してもらうには、工芸やものづくりを「コト」として伝える必要があると考えたのが始めたきっかけです。現場を見て、背景を知ってもらうことで、「高い」が「安い」に変わる瞬間を何度も見てきました。工芸やものづくりへの理解を促す、一つの突破口になったと思っています。
林口砂里氏(以下、林口) 私はもともと東京を拠点に、現代アートや音楽の仕事をしていました。12年に故郷の富山県高岡市に戻って改めて、伝統工芸の高岡銅器など、魅力的なものづくりがたくさんあることに気づきました。工房や職人を見て、純粋にかっこいいと思うと同時に、多くの課題を抱えていることを知りました。その後、高岡を拠点に「工芸ハッカソン」や産業観光、商品開発に取り組んでいます。
異分野とのコラボに可能性
――工芸ハッカソンとは?
林口 17年に高岡市で開催したプロジェクトです。地域の伝統産業の職人や工芸の作家と、エンジニアや研究者がチームとなって、工芸の未来を探るという内容で17年、18年と2回開催しました。19年と20年は、テクノロジーだけでなく音楽やファッションにも領域を広げて「Creators Meet TAKAOKA」として開催しています。先端テクノロジーなど、工芸と接点がなかった異分野とのコラボレーションに可能性を見いだしました。
永田宙郷氏(以下、永田) 地域産品や伝統産業を中心に、手工業品に軸足を置いて商品開発や事業サポートをしています。12年に「中量生産」「手工業」をコンセプトに、「作り手」「伝え手」「使い手」をつなぐ展示会「ててて見本市」を始めました。今では、「同業異種はどんなチャレンジをしているか?」など、作り手の悩み相談の場としての役割も担うようになっています。
――作り手の悩みや課題とは?
永田 10年前は、そもそも商品が売れないことに困っていました。しかし、この5年ほどは、「プロセスエコノミー」や「バックボーンエコノミー」と呼ばれる、背景も含めてものを買いたい人たちが増えていることもあって、どう売るか、どう伝えるかにシフトしています。工場の祭典や産業観光のように背景も含めて商材にする取り組みは、そうした課題解決になっています。
そして今では、後継ぎ不在や材料が手に入らないといった悩みが多く聞かれるようになってきました。例えば、和紙の原料である「こうぞ」は、山に行けば生えているものの、もうからないので採りに行く人がいないという状況です。
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