伝統工芸×テクノロジー 第13回(写真)

漆器など地場の工芸品を扱う問屋「漆器くにもと」(富山県高岡市)と、三井化学の「そざいの魅力ラボ(MOLp)」は共同で、太陽光によって経年変化する漆の色合いを楽しむピアスを開発した。三井化学による新素材「NAGORI™樹脂」に漆を塗布したもので、「EN(縁/円)」と「WA(輪/和)」の2種類ある。

漆器くにもと×MOLpのコラボによって誕生したピアス「EN」と「WA」。左からEn白檀塗(2万2000円、税込み、以下同)、En花塗(2万350円)、Wa花塗(2万2000円)。樹脂を使うことで、木地では難しい造形が容易に成形できた(画像提供/三井化学)
漆器くにもと×MOLpのコラボによって誕生したピアス「EN」と「WA」。左からEn白檀塗(2万2000円、税込み、以下同)、En花塗(2万350円)、Wa花塗(2万2000円)。樹脂を使うことで、木地では難しい造形が容易に成形できた(画像提供/三井化学)
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 ENとWAは高岡市が2019年度から取り組んできた「Creators Meet TAKAOKA(CMT)」事業から生まれた。伝統産業の工房と異業種クリエイターとのコラボレーションにより、手業の新たな価値創造を目指す事業だ。20年9月に開催されたCMT2020には、漆器くにもとをはじめとする地場企業6社と、新素材開発者として応募したMOLpなどクリエイター5組がエントリーした。

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 NAGORIは海水から抽出したミネラル成分を原料とする樹脂で、陶器のような高い質感や熱伝導性を持つ。MOLpはほかに、植物を原料とし、赤ちゃんのようなぷよぷよ肌からコチコチの硬さまで多様な触感を表現できる透明樹脂なども出品した。

 その三井化学に「ぜひコラボしたい」と声をかけたのが、漆器くにもとの國本耕太郎社長。「漆器のベース素材は一般に木地だが、椀(わん)や箸、盆などの伝統的な商品以外に用途を広げるには、樹脂のほうが成形が圧倒的に自由で可能性がある。しかも、MOLpの素材は肌合いなどが従来の樹脂と異なり、新しいものができると感じた」(國本社長)。そもそも木地職人が致命的なほど少なくなっているので、優れた代替素材を探し出すことが急務だった、とも言う。

 だが、声をかけられたMOLp運営メンバーの1人である三井化学ロボット材料事業開発室 主席部員の宮下友孝氏は、「非常に悩んだ」と言う。

 「漆器は『良品に重いものなし』と言われる世界。重い樹脂を使って何の意味があるのかと悩んだ。しかし、漆器に重さや柔らかさなどを加えることで、伝統工芸に新しい息吹を与えられるのではないか、と思い直した」(宮下氏)

 では何を作るか。MOLpの女性メンバーの「漆のピアスを作りたい」の一言で、ピアスと決まった。

En白檀塗を装着しているのは「漆のピアスを作りたい」と言ったMOLpメンバーのSarahさん。漆は手塗りのため1点1点個性がある(画像提供/三井化学)
En白檀塗を装着しているのは「漆のピアスを作りたい」と言ったMOLpメンバーのSarahさん。漆は手塗りのため1点1点個性がある(画像提供/三井化学)
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