伝統工芸×テクノロジー 第12回(写真)

「デザインの力で今までにない“食体験”を提供したかった。そのために最先端のテクノロジーを活用した」。こう語るのは金沢市を拠点にするクリエイター集団、secca inc.(雪花)代表の上町達也氏。つくるのは料理を載せる食器のデザインではなく、食器を通じた体験のデザインだ。

世界的に知られる料理人、アンドレ・チャン氏とのイベントで制作した器。雨が降ると一層美しくなる金沢市の情景を表現したという
世界的に知られる料理人、アンドレ・チャン氏とのイベントで制作した器。雨が降ると一層美しくなる金沢市の情景を表現したという

 secca inc.は、自分たちがデザインした食器を「Landscape Ware」、つまり“風景の器”と呼ぶ。土地の起伏が建築家に着想を与えるように、器のデザインが料理人の発想を促し、料理表現の可能性が広がるようにする。

前回(第11回)はこちら

 secca inc.の特徴は3次元データでデザインを考え、3Dプリンターで試作を重ねる点。焼き物として作るほか、耐久性に優れているプラスチックの「Tritan(トライタン)」も活用する。

「格子透箱」と呼ぶ茶碗(わん)箱で、抜けの構造が器の保護と鑑賞を兼ねている。ナイロン性の素材を使い3Dプリンターで製作した
「格子透箱」と呼ぶ茶碗(わん)箱で、抜けの構造が器の保護と鑑賞を兼ねている。ナイロン性の素材を使い3Dプリンターで製作した
レストラン「CAINOYA京都」のカウンターで顧客を迎える脚付き折敷。脚の部分は3Dプリンターで製作し、漆を塗って仕上げた
レストラン「CAINOYA京都」のカウンターで顧客を迎える脚付き折敷。脚の部分は3Dプリンターで製作し、漆を塗って仕上げた

 「崖や急斜面など、建築家が土地の起伏に合わせて建物を設計するように、器から料理が始まるように考えた。いわば料理人への挑戦状で、価値観の重なる料理人に提案している」とsecca inc.の柳井友一氏は語る。上町氏と柳井氏は大手メーカーでの勤務経験があるデザイナーで、3次元データによるものづくりを手がけていた。だが大量にものが生産され消費されていく状態を見て、自分たちが本当にやりたいものづくりとは何かを考え、secca inc.を2013年に立ち上げた。柳井氏が焼き物を学んだのは大手メーカーの退職後で、大量生産とは違うものづくりの素晴らしさに気づいたという。

「建築的な器」と呼ぶLandscape Wareの1つ。料理人への挑戦でもある
「建築的な器」と呼ぶLandscape Wareの1つ。料理人への挑戦でもある

 secca inc.の焼き物には、例えば石川県輪島市にある棚田から着想を得たデザイン「棚田」がある。同市の白米千枚田は、沿岸部の急こう配に階段状になった1000枚以上の田んぼが並ぶ。土地の起伏と人の営みが生み出した風景を、食器に段差を付けることで表現した。この食器を見た料理人は、田畑の風景を生かすため、野菜を使った料理を載せた。海の波打つ様子もしくは連続する山々のようなデザインの焼き物「wave」もある。真上から見ると、2つの正円が上下交互に作られている複雑な形状だ。この食器を見た料理人は大海原と見立て、海の恵みを象徴する魚料理を考えた。

棚田から着想を得た焼き物の食器「棚田」は、段差を付けることで土地の起伏を表現した。載っている料理は、新ジャガイモを使ったヴィシソワーズ
棚田から着想を得た焼き物の食器「棚田」は、段差を付けることで土地の起伏を表現した。載っている料理は、新ジャガイモを使ったヴィシソワーズ

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