
東北地方の土産や木地玩具として知られる「こけし」が、ECで独自の販売経路を開拓している。きっかけの一つに挙げられるのが、2010年代に起きた「第3次こけしブーム」だ。産業として存続するため、異業種とのコラボレーションや、制作現場のデジタル化、時代に合った販売経路を求める企業も出てきた。
こけしは大きく2種類ある。江戸末期には東北地方の湯治場で作られていたとされる鳴子系こけしなどの「伝統こけし」と、群馬県で発展した「創作こけし」だ。伝統こけしは、収集家や研究家の成果により、戦前に1度目のブームが起きた。高度経済成長期には観光地の要望を受けて作られた群馬県の創作こけしが2度目のブームをけん引。3度目のブームは、伝統工芸や職人仕事に対して、若手のクリエイターや消費者が興味を持ったことや、インバウンド需要が背景にある。
とはいえ、第2次ブーム以降は工人(伝統こけしの職人)、作家の後継者不足が深刻だ。産業として存続するため、異業種とのコラボレーションや、制作現場のデジタル化、時代に合った販売経路を求める企業も出てきた。10年に東北の工芸品、ものづくりを紹介する情報媒体「東北STANDARD」を始めた金入(青森県八戸市、以下カネイリ)は、ECと実店舗を通じて工芸品の販路開拓を続ける企業の一つだ。同社は文具書店を70年以上営んできた。その知見を活用し、17年、文具大手のゼブラ(東京・新宿)と協業して「こけしクリップボールペン」などオリジナル文具4点を発売した。
伝統こけしをモチーフに採用した理由を、カネイリの金入健雄社長は、「東北にしかない、東北の文化を象徴する一つだと思ったから」と説明する。こけしクリップボールペンは土産ものとして購入しやすく、伝統こけしの宣伝・PRになる。ゼブラにとっては、土産ものの棚に文具を置ける。これまで5000本以上を売り上げた。
20年4月には「東北三大祭り」と呼ばれる、青森ねぶた祭、仙台七夕まつり、秋田竿燈まつりの中止を受けて、カネイリはネットショップ作成サービスの「BASE」を活用した「#tohokuru/トホクル」を開設。東北の工芸、食品などを扱う78社が参加し、380品目が並ぶオンライン催事を開催した。
祭りに出品予定だった商品を予約販売し、注文後1カ月の間に製造して届けるという仕組みなので、過剰在庫も無くせる。トホクルは延べ30日間開催し、約1500人が来場。Twitterのリツイート数は1万件を超え、合計で1800万円以上を売り上げた。
LEDランプ入りこけしが話題に
「東日本大震災の後は、東北を応援したいという方が多く、こけしに改めて目が向いたように思う」と、民芸品・工芸品などを制作・販売するこけしのしまぬき(仙台市)の島貫昭彦社長は振り返る。
21年2月、宮城県と福島県で震度6強を観測した際に、同社で販売する「明かりこけし」が話題となった。こけしが倒れると、自動で底面のLEDランプが点灯することから、Twitterでは「防災グッズとして使えるこけし」として評判となり、こけしのしまぬきのECサイトで品切れになったという。
この記事は会員限定(無料)です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー