伝統工芸×テクノロジー 第7回(写真)

陶磁器や漆器といった伝統工芸だけではない。日本に古くからある伝統芸能でもテクノロジーを駆使し、迫りくる危機から脱しようという試みが行われている。山口県はAIベンダーと手を組んで、山口市に伝わる「鷺流狂言」の伝承と普及を目指す。開発されたAIモデルは、狂言の所作を楽しみながら学べるアプリなどへの応用が考えられている。

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 狂言は14世紀には既に上演されていたという記録があり、山口市に伝わる「鷺流狂言」も長い歴史をもつ狂言の流派の一つだ。1954(昭和29)年に山口鷺流狂言保存会が結成。山口県の指定無形文化財に指定されたが、現在、演者は数えるほどしかいない。「このままでは山口の鷺流狂言の伝統が10年以内に消えてしまいかねないという大きな危機感を持っている」(山口県観光スポーツ文化部の森重信博氏)

 山口県では保存会を中心に、狂言の初心者向け講座を定期的に行うなど、鷺流狂言の普及に努めてきた。「例えば山口県立大学では伝統芸能のサークルで学生とともに創作狂言を考えるといったことも行ってきた。そうした努力もあって鷺流狂言の活動の場は広がってきたものの、安定した運営や普及という段階にはまだほど遠いというのが正直な感想」(森重氏)

山口市に伝わる鷺流狂言。約400年の歴史を持つが、演者が数えるほどしかいないという危機を迎えている。(写真提供:山口鷺流狂言保存会提供)
山口市に伝わる鷺流狂言。約400年の歴史を持つが、演者が数えるほどしかいないという危機を迎えている。(写真提供:山口鷺流狂言保存会提供)

 地域の伝統芸能を支える新たな観光コンテンツを模索する山口県が応募したのが、オーダーメードによる「カスタムAI」の開発・提供を行うスタートアップLaboro.AI(東京・中央)が2021年4月に募集を開始したプロボノ(ボランティア)活動だ。このプロボノ活動は「我々が保有しているAI(人工知能)開発に関する専門知識やスキルを無償提供するもので、社会貢献に加えてAI技術の現場活用の可能性を示すという目的も含んでいる」(Laboro.AIのマーケティングディレクター 和田崇氏)という。様々な分野から複数件の応募があったが、技術的な実現可能性や社会への貢献度などを考慮して山口の鷺流狂言が最終的な支援先に選ばれた。

 山口県とLaboro.AIが手を組んで目指したのは、山口における鷺流狂言の伝承と普及を目的とし、「体験する」「楽しむ」「知る」といった価値を提供するアプリ。小中学生や観光客が楽しんで利用できるような狂言の教育・観光用コンテンツのためのAIを開発し、普及を目的とした将来的なソリューションの提案も行われる。

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