伝統工芸×テクノロジー

工芸をベースにした生活雑貨などの企画・製造・販売を手がける中川政七商店(奈良市)は、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げて同分野に特化した経営コンサルティング事業も推進している。日本の工芸の現状をどう見ているか、今後はデジタル化にどう乗ればいいか。会長の中川政七氏に聞いた。

中川政七氏
(写真提供/中川政七商店)
中川 政七 氏
中川政七商店会長
1974年生まれ。京都大学法学部卒業後、2000年富士通入社。02年に中川政七商店に入社し、18年より会長。業界初の工芸をベースにしたSPA(製造・小売り)業態を確立し、15年には独自性のある戦略により高い収益性を維持している企業を表彰する「ポーター賞」を受賞。奈良を拠点に数多くのスモールビジネスを生み出し、街を元気にするプロジェクト「N.PARK PROJECT」を提唱し、産業観光によりビジョンの実現を目指している。テレビ出演のほか、経営者・デザイナー向けのセミナーや講演歴も多数。著書に『小さな会社の生きる道。』(CCCメディアハウス)、『経営とデザインの幸せな関係』(日経BP)、『日本の工芸を元気にする!』(東洋経済新報社)など

前回(第5回)はこちら

――日本における工芸の現状をどう見ていますか。

中川政七氏(以下、中川) 一般財団法人伝統的工芸品産業振興協会の数値を見ても分かるように、工芸の生産額は最盛期の1980~90年には5000億円以上ありましたが、2017年ごろには約900億円と5分の1以下になっています。工芸に携わる企業の従業員数も、最盛期だった1979年の28万8000人がピークで2017年ごろは6万人前後と、生産額と同様に約5分の1になっています。

 衰退の傾向は以前より加速しており、工芸の将来に危機感を抱いています。この理由は、企業の多くに「経営がない」ことに尽きます。いくら職人の技術が優れていても、経営的に赤字の企業では、後継者も出てきません。事業継承の問題以前に、まずは赤字の体質を立て直し、黒字の経営を目指さないと将来はありません。

 1980年代までは日本全体が好景気だったので、工芸の市場も伸びていました。各産地にある問屋と工芸に携わるメーカーは一体となって動いていたので、極端に言えば、メーカーは受注に対応できればよかった。職人は技術を磨き、「生産部門」に徹していたのです。それが国内の生産コストが上がり、景気も悪くなると、問屋は海外に発注するようになりました。メーカーは生産部門の機能がメインだったので、どうすれば経営が成り立つかを理解していなかった。それが工芸の衰退した主な理由だと思います。中期経営計画はもちろん、予算表すら作っていない例もあるほどです。

 だから、私がコンサルティングをしている企業には、まず経営とは何かを教えています。中期経営計画書や予算表を作り、経理や販売、生産や在庫、さらにデザインやブランディングなどの知識を身に付けることで、経営が成り立つようにします。工芸のコンサルティングではデザインやブランディングさえできればいいと思われがちですが、そうではありません。

工芸に携わる企業向けに教育プログラムを実施し、「ビジョン」「ブランディング」など経営の本質を伝えている(写真提供/中川政七商店)
工芸に携わる企業向けに教育プログラムを実施し、「ビジョン」「ブランディング」など経営の本質を伝えている(写真提供/中川政七商店)

まずはビジョンの重要性を理解する

――コンサルティング事業の一環で教育講座「経営とブランディング講座」を開いていますが、「ビジョン」の重要性を打ち出していますね。

中川 経営で最も上位概念にくるのがビジョンだからです。これが決まれば企業がどう進むべきかのコンセプトが決まり、企業としての形が出来上がります。このため、まずはビジョンの大切さ、ビジョンをどうつくり、ビジネスにつなげていくか、社内に浸透させるかを教えています。これが意外に難しく、自分の腹の底から出てきた思いを表現しなくてはなりません。企業の「旗印」ですから、社員が賛同でき、気持ちも上がるような文言にする必要があります。「業績を何%上げます」「地球や社会をよくします」といった内容では、上辺だけの印象があります。

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