
特集の4回目は、伝統工芸が「作る」テクノロジーとどう向き合おうとしているかに焦点を当てる。3次元データを活用した肥前吉田焼を手がける224porcelain(佐賀県嬉野市)や、漆の素材を改良して食洗機に対応できる漆器を開発した漆琳堂(福井県鯖江市)は、いずれも伝統工芸ながら新しいものづくりにチャレンジし、独自のブランディングにまで結び付けている。
伝統工芸も最新テクノロジーを抜きにしては語れない時代になってきた。伝統を守るだけでは、時代のニーズに合わなくなる。“飾っておくだけ”の商品ではなく、実際に日々使うものを開発しなければ衰退してしまうだけだろう。こうした事例について、特集の4回目では「作る」という視点で見てみよう。いずれも最新テクノロジーを活用することで、一般消費者が求める機能を追求している。
すでに多くの製造業では、コンピューターの画面内で設計して製造システムとデータ連携させるといった試みが始まっている。しかし焼き物はそう簡単にはいかない。乾燥や焼成といった製造過程で生じる焼き物のゆがみを事前に勘案しながら、3次元データで設計する必要があるからだ。ITの知識はもちろん、焼き物の経験やノウハウも不可欠になる。
佐賀県嬉野市で作られる肥前吉田焼は、茶器や食器といった生活雑器の焼き物で知られる。佐賀県有田町の有田焼と同様に約400年の歴史を誇り、決まった様式のない自由さが特徴だ。そんな肥前吉田焼に3次元データを活用し、新たな焼き物の開発に挑む企業がある。地元で約170年続く実家の窯元から独立した辻諭氏が、2012年に立ち上げた224porcelain(ポーセリン)だ。
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辻氏は、CG(コンピューターグラフィックス)や3D(3次元)プリンター、NC(数値制御)切削機を使いこなし、国内外のデザイナーともコラボレーション。データをやり取りし、さまざまな形状の焼き物を短期間で作る。例えばCGは、画面上でデザインを決めるために活用。その後、3Dプリンターを使って樹脂で試作品を完成させ、大きさや持ちやすさなどを確認する。細かい部分が決まれば、NC切削機で石こうを削り出して型にする。そして型に生地を流して成形し、乾燥させて窯で焼くといった具合。これまで約1カ月かかっていた製造工程を、数日に短縮できた。
テクノロジーの進化に焼き物の業界は追いついていない
「有田焼のような高級なイメージではなく、肥前吉田焼としてもっと自由な表現を追求したかった。テクノロジーの進化に焼き物の業界は追いついていない。そのため実家の窯元で修業しながら、独学で3次元データの扱い方を学んだ。製造時間が圧倒的に削減でき、これまでの焼き物の常識を覆すスピードにつながった。自社で商品を開発するほか、多くのクライアントからも依頼を頂いている」と辻氏は言う。すでに同社は4台のNC切削機、1台の3Dプリンターを導入しているが、今後はさらに増やす予定だ。
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