対面販売を主軸としてきた伝統工芸品。コロナ禍を経て、ライブ配信やクラウドファンディングを駆使し、より消費者と“密”に交流をする工房も出てきた。一般的なECサイトでは伝え切れない作り手の思いや商品に注ぎ込まれた技術などを深掘りして伝え、熱狂的なファンを生み出し、次の飛躍を目指す企業に話を聞いた。

コロナ禍以前は、伝統工芸の工房を見学・体験できるイベントが各地で行われ、人気を集めていた。人の移動が制限され、大規模イベントが困難になる中、オンライン化を目指す動きも増えている。写真は、コロナ禍前に行われた九谷焼の窯元である上出長右衛門窯(かみでちょうえもんがま、石川県能美市)の窯の開放イベントの様子(写真提供/上出長右衛門窯)
コロナ禍以前は、伝統工芸の工房を見学・体験できるイベントが各地で行われ、人気を集めていた。人の移動が制限され、大規模イベントが困難になる中、オンライン化を目指す動きも増えている。写真は、コロナ禍前に行われた九谷焼の窯元である上出長右衛門窯(かみでちょうえもんがま、石川県能美市)の窯の開放イベントの様子(写真提供/上出長右衛門窯)

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 消費者といかに直接つながるか――。オンライン技術を取り込むことで、伝統工芸市場は大きな変化を遂げつつある。

 コロナ禍で伝統工芸が大きな痛手を被っていることは、特集の第1回で指摘した通り。主な販路である百貨店での客足の減少、観光やインバウンド需要の消失、作品を発表する展示会の中止も相次ぎ、大きな窮地に立たされている。そんな中、オンラインツールを駆使して消費者と直接つながり、活路を見いだしている企業がある。

 ライブ配信とECを巧みに組み合わせ、ファンの心をつかんでいるのが、石川県の伝統工芸である九谷焼の窯元であり、1879年に創業した上出長右衛門窯(かみでちょうえもんがま、石川県能美市)だ。

 九谷焼は、石川県南部を中心に生産が続く色絵磁器で、色合い鮮やかなものや、青のみのグラデーションで描かれたものなどが有名。そもそもは、殿様などが使う豪華な食器類であり、高級食器として多くの飲食店で愛されている。絵柄をシール状にして貼り付けて焼く転写で生産するものもあるが、上出長右衛門窯では職人がすべて手書きで絵付けをするのが特徴だ。

【特集】伝統工芸×テクノロジー
【第1回】 加速する「伝統工芸DX」 ライブ配信に3Dプリンター活用も
【第2回】 伝統工芸の食器サブスクが人気? トヨタや日比谷花壇とも提携
【第3回】 創業142年の窯元がインスタライブ オンラインでも高額品が売れる ←今回はココ
【第4回】 3次元データで肥前吉田焼 最新技術で伝統工芸を「作る」

売り上げの大きな割合を占める「窯まつり」をオンライン化

 コロナ禍において、上出長右衛門窯も大きな打撃を受けた。卸を介して出荷している百貨店などの小売店から注文がなくなった。さらに、大きな痛手となったのが、毎年5月に行っている「窯まつり」を縮小せざるを得なくなったことだ。

 窯まつりとは、上出長右衛門窯が独自に行っているオープンファクトリー企画で、「作っている工程を見てもらい、例えばこの湯飲みがどのように生まれているのかなど、職人の手仕事を身近に感じてもらえる場」と、上出長右衛門窯の6代目である上出惠悟氏は位置づけを語る。イベントやワークショップに加え、飲食物の提供もあり、まさに祭り。10年以上続けている名物企画で、2019年には参加者が4日間で4500人に達し、20年には5000人の来場を想定していた。そんな中でのコロナ禍だった。

コロナ禍以前の窯まつりの様子。全国から多くの人が集まる大きなイベントとなっていた。まつりのために製作した数量限定品や、製品として出荷できない二等品の特別販売も人気(写真提供/上出長右衛門窯)
コロナ禍以前の窯まつりの様子。全国から多くの人が集まる大きなイベントとなっていた。まつりのために製作した数量限定品や、製品として出荷できない二等品の特別販売も人気(写真提供/上出長右衛門窯)
上出長右衛門窯の6代目である上出惠悟氏。1981年石川県生まれ、2006年東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。同年より、上出長右衛門窯の後継者として、職人と共に多くの企画や作品の発表、デザインに携わる。13年合同会社上出瓷藝(かみでしげい)設立を機に、本格的に窯の経営に従事(写真提供/上出長右衛門窯)
上出長右衛門窯の6代目である上出惠悟氏。1981年石川県生まれ、2006年東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻卒業。同年より、上出長右衛門窯の後継者として、職人と共に多くの企画や作品の発表、デザインに携わる。13年合同会社上出瓷藝(かみでしげい)設立を機に、本格的に窯の経営に従事(写真提供/上出長右衛門窯)

 20年5月の窯まつりはリアル開催が困難で延期を決断したが、「窯まつりでの販売は年間の売り上げで見ても大きい」(上出氏)ことから、代わりとなるオンラインイベントの開催を目指した。専用サイトをつくり、自社のECとも連携。だが、それだけでは大きな課題が残った。「窯まつりはただ商品を売る場ではなく、職人たちとの交流の場、職人がじかにお客さんと触れ合う場だった。オンラインだからといって、売るだけのイベントにしては意味がない」(上出氏)ということだ。

 そこで取り組んだのが、インスタライブによるライブ配信だった。

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