
コロナ禍の苦境が続く中、テクノロジーと融合し、復興へ動き出している業界がある。手仕事を強みとする工芸品の領域だ。コロナ禍前はEC化すらあまり進んでいなかったが、先端加工技術の導入や、ストーリーコマース、サブスクリプションといった新トレンドへの対応など、デジタル化、DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速する。レガシー産業の進化は、日本復活の足がかりにもなりそうだ。
コロナ禍はさまざまな産業に影響を与え続けている。手工業を中心とする工芸品や長い歴史を持つ伝統工芸も大きな打撃を受ける産業の一つ。百貨店などのリアル店舗での販売を中心としたビジネスモデルで、EC化が進んでいなかった領域であり、人流の喪失の影響をもろに受けている。近年、需要を伸ばしていたインバウンド消費も消滅。さらに、結婚式の延期や中止などにより引き出物需要も低迷が続く。さらに、飲食店やホテルなど向けのBtoB需要も大打撃を受ける。まさに八方塞がりの状況だ。
だが、実は衰退の足音は、コロナ禍以前から始まっていた。工芸品の多くは、地域の卸、もしくは専門の卸を介するのが基本だった。前述のようにリアル店舗、それも百貨店など販路は限定的で、新規の販路開拓、特にEC化が遅れていたといわれている。また、昨今急成長中のD2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)のような、消費者と直接つながる新しい売り方への対応も後手に回っていた。そこにきてのコロナ禍だった。
そんな中、テクノロジーとのかけ算で道を切り開き、匠(たくみ)の技術や文化を残すべく、産業として成長を遂げようと模索する企業や職人もいる。伝統工芸は、小売りによる消費だけでなく、その技術や歴史は地域の資源としても重要だ。海外に目を向ければ、インバウンド需要だけでなく、“輸出産業”としてもまだ伸ばす余地がある。伝統工芸の復活は、日本復権の大きな力となる可能性を秘める。本特集では、「売り方」「作り方」をどうテクノロジーで変革し、ビジネスとして成長につなげているのか、事例を基に探っていく。
歴史や文化、慣習が色濃く残り、変革を起こすことが困難といわれる工芸品の産業。テクノロジーのかけ算で変貌を遂げる姿からは、中小企業や個店、さらにレガシー産業が生き残るためのヒントが見えてくる。
ただのECでは売れない、カギは「ストーリー」にあり
コロナ禍を経て、買い物のオンラインシフトは鮮明になった。「売り方」の変革としてまず進むのがECへの対応だ。事実、新規出店は加速している。
楽天グループの「楽天市場」では、コロナ禍の影響が大きく出始めた2020年4月から6月末までの3カ月間で、出店店舗数は1258店舗も増え、初の5万店を突破した。さらに、楽天の20年度の国内EC流通総額(楽天市場の他、トラベル、ラクマなども含む)は、前年同期比19.9%増の約4.5兆円と、こちらも初の4兆円台に。
さらに、BASEの「BASE(ベイス)」やヘイ(東京・渋谷)の「STORES(ストアーズ)」といった、簡単にオンラインショップをつくれるサービスには、工芸品などの中小事業者の参入も目立つ。
だが、「独自にECを運営し、軌道に乗せていくことは簡単ではない」と、手仕事商品を中心に扱うオンラインショップ「CRAFT STORE(クラフトストア)」を展開するニューワールド(東京・港)の井手康博社長は指摘する。事業として成長させるには、デジタル領域、ECに知識のある担当者が必要となり、小規模な企業では人材が不足している。新規に採用するのも簡単ではないからだ。
また、工芸品の多くは大量生産品に比べると高価格帯であり、買う前に触ってみたいという、リアル店舗での体験が重視されている。衝動買いできないため、「単にECサイトで並べれば買ってもらえるわけではない」(井手氏)。
そんな中、工芸品の魅力をオンラインでも伝えられる可能性を持つ新感覚のサービスに注目が集まっている。
「ストーリーコマース」だ。
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