
人気企業アカウントとして知られるタニタ(東京・板橋)は、Twitterの新機能「スペース」を利用し、トークでリスナーと交流。ロボット掃除機「ルンバ」の製造・販売を手掛けるアイロボットジャパン(東京・千代田)は、新生活を迎える若い世代へのアプローチとして動画に注力する。

人気企業アカウントの代名詞ともいえるタニタ公式Twitterアカウントは、2021年5月から、新設の音声チャット機能「スペース(Spaces)」を使ってフォロワーとの交流に取り組んでいる。
スペースは、2021年1月末から2月にかけて彗星(すいせい)のように現れブームを起こした音声SNS「Clubhouse(クラブハウス)」の競合として、Twitterが搭載した新機能だ。招待制でゼロからフォロワーを集める必要があったクラブハウスに対し、既存のフォロワーに向けて音声トークができるスペースは、もともとのフォロワー数が多いインフルエンサーにとって使い勝手がよく、21年4月末に実装されるや瞬く間に音声チャットプラットフォーム標準ともいえる存在感を出している。
では万人単位のTwitterフォロワーを持つ企業公式アカウントがこぞってスペースを始めたのかというと、決してそうではない。現状は、例えばマネー系や自己啓発系など、関心事が一致する一般Twitterユーザーが仲間内で夜な夜な雑談を楽しんでいる様子だ。
そうした状況の中、32万超のフォロワーを持つタニタは、新たなファンとのつながりを構築する手法を模索するためにスペースの利用を開始した。
タニタ公式「中の人」がスペースに現れるのは、不定期だが週末金曜の夜11時台が多い。東京五輪開会式を翌日に控えた21年7月22日の夜(※この日は木曜)は、梅雨明け後の猛暑期ということもあり、水分補給やエアコンの温度設定といった暑さ対策、無理のないダイエットなどをテーマに自身の経験談、エピソードを交えて披露していた。

スペースの開始が告知される投稿に、「ご質問ありましたらリプライでお願いします」とツイートすることで、そこに数十件から百件超の質問や感想が寄せられる。これに目を通しながら質問を拾って答える形で和やかに進行していく。好きなアーティストや好みの映画、ゲームタイトルなど、話題の幅が広いのがタニタ公式の持ち味。声がいいこと(イケてるボイス)を意味する「イケボですねえ」といった反響が多く寄せられるのも武器である。
聴衆は日によって変わるものの100人を超えることが多い。セガ公式アカウントと対談した21年7月13日の回は、200人ほどのリスナーが集まった。セガ設立60周年のお祝いとして、セガの看板キャラクター「ソニック」入りの特製業務用体組成計を寄贈し、セガの総務と広報社員15人がそれを使って21年4~7月にタニタ健康プログラムを体験したことから、スペース上での対談が実現した。
企業アカウントがスペースを活用することで得られる成果を数字で説明するのはなかなか難しい。タニタ公式が利用を始めた理由も、「使ってみないことには何が良いか分からないから」と手探りの段階だ。それでも週末の夜にスペースに集まるコアなファンに向けて、テキストとは異なる音声を通じたレスポンスをすることで、「コミュニケーションの奥行きが広がった感覚はある」という。
リプライで寄せられた質問を読み上げて回答すると、それに対するお礼ツイートが返ってきたりもする。Twitterでも寄せられるリプライによく回答しているが、テキストではなく声で返ってくる回答は新鮮さがあり、あたかもラジオ番組のパーソナリティー宛に送信したメール(昔ならばはがき)が読まれたときのような高揚感があるのだろう。
32万を超えるタニタTwitterのフォロワーからすれば100人は少数である。が、ファンベースの視点に立てば、100人は十分な規模だ。特にコロナ禍でリアルのイベント開催がままならない今しばらくは、スペース上で普段とは一味違った中の人像を伝えて交流を深めるチャンスでもある。
企業公式アカウントの投稿については、順守すべきガイドラインに沿った運用をすることで担当者に一任している企業が増えたが、ラジオのようにしゃべるスペースとなると、「自由にどうぞ」とはいかない企業が大半だろう。その壁を越えて、各社の中の人が自由にしゃべりだすようになるか。そうなれば、中の人に求められるスキルセットがもう一段変わってきそうだ。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー