
数ある動画サービスの中でも、特に若者に人気の動画の投稿アプリといえば中国バイトダンスの「TikTok」だ。自然な口コミへとつなげるためのPRの土壌としてもメーカー各社の利用が広がる。大塚製薬、美容関連の日用品を扱うI-ne(アイエヌイー)の取り組みから、Z世代に刺さる動画広告のコツを探った。
「コンビニの購買データがPOS(販売時点情報管理)で跳ねています。マーケ側で何か仕掛けているんですか」
2021年4月下旬、営業担当者からの報告を受けて、POSデータを確認したところ、確かに日販平均で、炭酸飲料「ファイブミニ」の販売が2倍以上も上がっている。SNSの担当に問い合わせてみても、理由はよく分からない。大塚製薬ニュートラシューティカルズ事業部製品部オロナミンC APMM兼ファイブミニ担当の小出莉央氏は「何だろうと調べていたら、Twitterのタイムラインで話題になっていた」と振り返る。さらに発信源をたどるとTikTokに行き着いた。
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「めっちゃ出る」ダイエット愛好者が評判
「のんだ次の日すっきり」「めっちゃ出る」。TikTok上では、ファイブミニを飲むことでおなかの調子に関する効果があったことを伝えるコメントと共に、ファイブミニの瓶を音楽と各種の映像エフェクトを組み合わせた動画が多数出てきた。
ダイエットの投稿で有名なインフルエンサーが、ファイブミニや寒天と組み合わせたオリジナルドリンクのレシピを考案して、作り方を紹介していたこともTikTok内の流行に拍車をかけていた。「『どこに売っているの?』といった動画に付いたコメントを通してコンビニでの販売につながった」(小出氏)。その後もハッシュタグ「#ファイブミニ」が付いた動画の視聴回数は伸び続け、21年8月上旬の段階で2000万回を超えている。
ファイブミニは食物繊維が手軽にとれる飲料として1988年に発売となった。96年におなかの調子を整える特定保健用食品(トクホ)の認定を受けている。従来の想定利用者層は30~50代の男女。「ファイブミニ担当は6年目だが、若者の間でSNSでここまでバズったのは初めて」と小出氏は話す。
野菜不足が気になる人などに向けてLINEの公式アカウントを使った試供品のプレゼントキャンペーンを実施したことはあった。今回の盛大な「バズり」をきっかけに若者層にアピールする好機とみて、21年8月上旬からTikTokでもインフルエンサーを起用したPR動画の配信を開始した。「これまでのボリューム層に加え、若い層に広げていくことで生涯顧客をつくっていきたい」(小出氏)と意気込む。
短尺動画に必須のエンタメ性
瑛人の「香水」、シンガー・ソングライターひらめの「ポケットからきゅんです!」をはじめ、TikTok発で新たな流行が生み出されるケースが増えている。アプリの画面上に表示されたおすすめ動画を見た視聴者は、コメントを書き込み、さらには自分でも関連動画を発信する。その「シャワー効果」で連鎖的に認知が広がる。メーカーなどの企業も、その影響力を見逃せなくなってきた。
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