「NPS」活用の盲点

「あなたはこの商品を友人、知人にお薦めしたいと思いますか?」――。推奨意向を問うネット・プロモーター・スコア(NPS)のこの設問は「究極の質問」と呼ばれ、業績との連動性の高さから顧客満足度などより優れた「究極の指標」とも称されている。では、NPSだけを見ていれば事足りるのだろうか?

NPSは究極の指標?(写真/Shutterstock)
NPSは究極の指標?(写真/Shutterstock)

 大切な友人や家族にお薦めしたくなるほど気に入っている商品ならば、もちろん自分自身の満足度は高く、今後もリピート購入する、つまり顧客ロイヤルティーが高いはず。さらに周囲にお薦めすることで友人が新規顧客になる可能性も高まる――。そんな期待から、推奨意向を尋ねるネット・プロモーター・スコア(NPS)が究極の質問、究極の指標として取りざたされ、企業で採用が進んでいった。

前回(第2回)はこちら

 では、以前から顧客アンケートで尋ねてきた顧客満足度や再購入意向は改めて聞かなくてもよいのだろうか?

 実際に多くの業界、商品・サービスで、推奨意向が高ければ満足度も高く、再購入意欲(顧客ロイヤルティー)も高いという方程式は成立している。ただ、「多くの業界で」と書いた通り、これが成立していないケースもある。その実例を挙げたい。

【特集】「NPS」の盲点
【第1回】 フツーを付けただけなのに NPSが日本だけ低評価になるカラクリ
【第2回】 NPSの日本の低スコアをチューニング 「PSJ」で欧米と比較可能に
【第3回】 「究極の指標」NPSに盲点 顧客満足度低下に気付かない場合も ←今回はココ

推奨意向は低めだが、満足度&再利用意向は高いスカイマーク

 日本生産性本部内の組織であるサービス産業生産性協議会(SPRING)では、2009年度から日本版顧客満足度指数「JCSI」を調査、公表している。JCSIが消費者調査から算出する指標は以下の6点。

  1. 顧客期待:商品・サービス利用前の期待感
  2. 知覚品質:利用して感じた品質評価
  3. 知覚価値:利用して感じた費用対効果
  4. 顧客満足:利用して感じた満足度合い
  5. 推奨意向:肯定的に人に話したくなるか
  6. ロイヤルティ:再購入(利用)意向

 上記6指標について各3~4問、計21の設問から各100点満点で採点し、業種別にランキングしている。20年度は新型コロナウイルス感染拡大の影響で調査ができない業界もあったが、19年度は全38業種458社について、総計13万人以上の利用者にアンケートを行った。

 注目は、推奨意向が上位なら顧客満足とロイヤルティーも上位にあるかどうか。航空業界の国内線部門(対象は8企業・ブランド、20年8~9月調査)を見ると、顧客満足およびロイヤルティーで首位に立つスカイマークが、推奨意向では4位と振るわない。

2020年度 JCSI(日本版顧客満足度指数)国内航空部門
2020年度 JCSI(日本版顧客満足度指数)国内航空部門

 スカイマークは、出発予定時刻から15分以内に出発した便数の割合である定時運航率で17~19年度、3年連続トップに立つ、“無遅刻”で定評のあるエアラインだ。一方で、質の高いサービスは期待しがたい面もある。「スカイマーク・サービスコンセプト」と題したリーフレットに記された、「荷物はご自身で収納を」「当社客室乗務員には丁寧な言葉遣いを義務付けていない」「客室乗務員は保安要員として搭乗勤務に就いており接客は補助的なもの」といった表現が物議を醸したこともあった。

 満足度も再利用意向もトップながら、友人への推奨となるとトーンダウンしてしまうのは、こんな背景があるからだろう。

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