早稲田大学在学中の2009年に『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞、現役早大生作家として一躍注目を集め、数々の話題作を世に出し続けてきた朝井リョウ氏。早稲田での4年間は、現在の作家生活の中にどのように息づいているのか。

※日経トレンディ2021年8月号の記事を再構成

小説家 朝井 リョウ氏
〈早稲田大学 文化構想学部 2012年卒〉

1989年、岐阜県生まれ。早稲田大学在学中の2009年に『桐島、部活やめるってよ』(集英社)で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年に『何者』(新潮社)で第148回直木賞、14年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。近著に『スター』(朝日新聞出版)、『正欲』(新潮社)。他著書多数

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——入学されたのは、文化構想学部ができてまだ間もない頃ですね。

 はい、私は2期生です。早稲田を受けたのは、文化構想学部の教授に堀江敏幸先生がいたからなんです。受験勉強中、センター試験の過去問に使われていた小説がとても印象深くて、試験問題にもかかわらず読みふけってしまったことがあったのですが、その小説の作者が堀江先生でした。早稲田大学のパンフレットを見ていたら、教授一覧の中に堀江先生の名前を見つけて、「堀江敏幸ってあの堀江敏幸?」とびっくりしました。絶対に先生のゼミに入りたい、と受験したんです。

 堀江ゼミは文芸創作を学ぶゼミなのですが、学生が発表したり提出したりする作品に対して、とにかくすごく褒めてくれるんです。いつもどこか良いところを見つけようとしてくれる先生でした。具体的な技術より、創作に対する姿勢を教えていただいたと思っています。私は卒業制作として、小説家として書いた『星やどりの声』という作品を提出したのですが、それが大学に認めてもらえるよう力を貸してくださったのも堀江先生でした。

【早大時代のゼミ】堀江敏幸ゼミ
文芸創作を実践的に学ぶゼミ。堀江敏幸ゼミに入りたくて文化構想学部を志望。「当時も人気のゼミでした。ゼミ試験は、面接と原稿用紙30枚くらいの文章を書いて提出するというもの」(朝井氏)

——在学中、他にも印象深い先生や授業との出会いはありましたか。

 1年生の時に基礎教養のクラスがあり、私のクラスの担当は民俗学が専門の和田修先生でした。和田先生は民俗芸能を研究されていて、全国各地にフィールドワークに行かれるのですが、その際に希望する学生を気軽に同行させてくれたんです。私も対馬に連れて行ってもらいました。その土地ならではの特別なお祭りのある時期で、3泊ほど現地の人たちと交流したのは忘れられない思い出です。

 今思えば、在学中にもっと他の先生とも交流すればよかったです。当時は分かっていませんでしたが、一つの分野の研究を究めて食べていこうと決めた人が、どれだけ特殊な存在か、大人になってようやく気づきました。しかも、早稲田には個性的な教授があんなにたくさんいたのに。

——3年生ですばる新人賞を受賞されます。当時、大学では周囲からはどんな反応がありましたか。

 私がネガティブなのかもしれませんが、それほど「すごいね!」という感じでもなかったです。本が好きな学生って大抵、エンタメと純文学だったら純文学の方がかっこいいと思っていますよね。その後、慶応の院生だった朝吹真理子さんが芥川賞を受賞され、比較されたりもしました。私は「部活やめるってよ」とか言ってるのが早稲田っぽいじゃん、みたいに笑っていました。

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