ここ数年、大学発スタートアップの動きが一気に加速している。2014年から国立大学法人によるベンチャーキャピタル(VC)への出資が可能に。私大では慶応義塾大学が15年にVCをいち早く設立し、投資先からは既に上場企業が誕生。早稲田大学も19年から専用ファンドでスタートアップ支援に取り組む。
※日経トレンディ2021年8月号の記事を再構成
大学発スタートアップの動きが近年活発化する引き金になったのが、2014年に施行された産業競争力強化法だ。大学での研究成果などを基にした起業を支援するベンチャーキャピタル(VC)に、国立大学法人が出資できるようになった。東京大学、京都大学、大阪大学、東北大学の4国立大学は子会社として専用VCを設立。これにより、研究期間が長く、シード期には利益回収の予測が難しかった大学発スタートアップに潤沢な資金が流れ込むようになった。
私立大学で動きが早かったのは、慶応義塾大学だ。15年に「慶応イノベーション・イニシアティブ」(以下、KII)をいち早く設立。KIIは、VCに連動して国からの研究助成金も得られるNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「研究開発型スタートアップ支援事業」の認定VCにも選定されている。理工学系、医学系を中心にスタートアップの研究開発費が確保しやすい土壌が整ったかたちだ。
「45億円規模の1号ファンドは、慶応の研究成果を活用した企業や卒業生が設立した企業19社に投資した。既に上場に成功した企業が1社(クリングルファーマ)。20年に最も企業価値が増加した未上場企業である次世代バッテリー製造を手掛けるAPBなどもあり、うまくいけば21年中にさらに2、3社は上場が期待できそうだ」(KII)
【慶大の専用ファンド/2015年】
大学資本の入った子会社として慶応イノベーティブ・イニシアティブ設立
一方、早稲田大学は出足が遅かった。11年末に早稲田発スタートアップを名乗る企業に対して、「大学が関知、認定するところではない」という異例の通知を出すほどだった。それが、19年にようやく外部ファンドのウエルインベストメントとBeyond Next Venturesの2社と提携。それぞれ10億円規模の“早稲田ファンド”を立ち上げるに至った。「単なる投資だけではなく、分断されていた文系、理系の人材、アイデアの交流もアシストする。早稲田に眠る起業の種を連結させて育てていく」(ウエルインベストメント)
【早大の専用ファンド/2019年】
早稲田発のスタートアップ支援のため、外部ファンド2社と提携
では日本の大学の中で、早慶はどういう力を持っているか。まず20年度の起業数は早慶共に90社だ。大学発スタートアップの起業が多い順に並べると10位タイとなり、上位陣は国立大学が占めている(下表)。ただ、「慶応は1社当たりの調達額が大きい傾向にある」(KII)。大学別にスタートアップの年間調達総額を比べると、20年度は王者・東大の195億円に迫る188億円を記録している(下グラフ)。
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