新型コロナと入試改革の影響で、2021年度の大学入試は大きく揺れた。早稲田大学の志願者数が10万人を割り込むとのニュースが話題になったが、その裏で早慶の両方に受かった人のうち、例年と比べて早稲田大学に進学した人が多いという現象が起きたという。最新の早慶受験事情について、予備校や大学入試に詳しい識者に聞いた。
※日経トレンディ2021年8月号の記事を再構成
2021年度の大学入試は、早稲田大学の志願者数が49年ぶりに10万人を割り込んで大きな話題になった。しかし、志願者数の減少は私立大学にとって実は織り込み済み。そもそも早稲田、慶応をはじめ、募集人員を徐々に減らしている大学が多いからだ。
ただし21年に限れば、さらに2つの特別な事情があった。大学が合格を出しても、実際に入学手続きをする学生数が募集定員に満たずに、新年度ギリギリまで追加合格を出す大学が相次いだ。激変した受験事情の理由は、第1に入試制度改革。つまり、21年から「大学入試センター試験」が「大学入学共通テスト」に変わったことだ。
ベネッセ教育情報センターの谷本祐一郎氏は、「18歳人口が20年度よりも約2.6万人減少した。さらに、20年の受験生は浪人すれば新しい共通テストへの対策が必要になるため現役志向が強く、21年の既卒の受験生が減った。共通テストの既卒生志願者数は約2割減少している」と分析する。
もう一つの理由はやはり、新型コロナによる影響だ。オープンキャンパスは開催されず、全国規模の模試も相次いで中止や延期となった。大学の情報も受験の手掛かりになるデータも少ない。これが1人当たりの受験校数に響いた。
保守的な受験生が増え、近さや利便性を好む傾向も
このコロナ禍の入試を、駿台教育研究所の石原賢一氏は「3C入試だった」と分析する。
1つ目のCは「コンパクト」。コロナ感染を避け、自宅から通える近距離の大学が好まれた。「オンライン授業でキャンパスに行けるかどうか分からないことも手伝って、地方の受験生が早慶など都市部の大学に挑戦することを避けた」(石原氏)。さらに併願数もコンパクトに絞った受験生は多く、偏差値的には難しくても受ける「記念受験」が減ったことも早慶など難関私大には影響した。
2つ目が「コンサバティブ」。受験生が保守的で、入試内容を変更した大学を避けた。その筆頭が早稲田大学。共通テストを必須にした入試を一部の学部で展開し、政治経済学部では数学Ⅰ・Aの試験を必須とした。受験生からすれば負荷が増え、他の私学との併願もしづらいため、敬遠したくなる。実際、政治経済学部の志願者数は対前年比72%と落ち込んだ。他にも、青山学院大学が独自性の強い問題を課した結果、志願者数を大きく減らした。
3つ目が「コンビニエンス」。日程や費用の面で利便性を高めた大学が人気を集めた。前年より受験生を5000人以上増やした千葉工業大学は、共通テスト利用型入試の受験料を無料または減額にした。MARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)で唯一志願者増となった立教は英語の独自試験を廃止し、2年以内に受けた外部試験の一番良いスコアを提出でき、同じ学部・学科を複数回受験できる全学部入試を従来の2日間から5日間にした。
だが、「短期的に志願者数を減らしたことが、負けではない」と、多くの予備校関係者が口をそろえる。早稲田の政治経済学部の数学必須化は、政治や経済を学ぶ上で数学が必要であることを強く印象付けている。谷本氏は、「入学後の学びを考えて、必要だから数学を課した。入ってから学べる力を確かめるための入試改革」と見る。
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