スープ専門店「スープストックトーキョー」を皮切りに、ユニークなデザインが特徴のネクタイブランド「ジラフ」など、「体験を売る」をコンセプトにして様々な事業で成功を収めてきたスマイルズ。2000年に、当時勤めていた三菱商事初の社内ベンチャーとして同社を設立した遠山正道氏は、幼稚舎から大学までを慶応で過ごした。

※日経トレンディ2021年8月号の記事を再構成

前回(第2回)はこちら

スマイルズ社長 遠山 正道氏
〈慶応義塾大学 商学部 1985年卒〉

1962年東京都生まれ。慶応義塾大学卒業後、三菱商事に入社し、建設部や情報産業部門に所属。 99年、食べるスープの専門店「スープストックトーキョー」開店。2000年に三菱商事初の社内ベンチャー企業として株式会社スマイルズを設立。08年2月にMBO(経営陣が参加する買収)を行い、同社のオーナーを務めている

——慶応義塾大学で主に学んだことは何でしょうか。

 商学部では、浅井慶三郎教授のゼミでマーケティングを学びました。なんとなくマーケティング系という方向に興味はあったのですが、真面目に研究だけに没頭という感じでは物足りなく、そのときに周りから「マーケティング系なら浅井先生のゼミがいいらしいよ」という噂を聞いたのが、同ゼミを選んだきっかけです。

 ただし、大学時代の私は水上スキー部の活動に全力を傾けていたので、勉強熱心ではありませんでしたね(笑)。ゼミの中では、学問的姿勢や能力では一番下というか、ダメなゼミ生ナンバーワンだったと思います。ゼミでは行動経済学の本を読んだり、コトラーの考え方を知って「面白いな」と思ったりしましたが、今では何を学んだか、あまり記憶にありません。

 でも、今思い返すと後の起業につながる貴重な体験がありました。ゼミである時、休講になった浅井先生の代わりに来た若い助手の方が『1分間マネジャー』(ダイヤモンド社)という本の前書きを朗読してくれたんです。そこには、「主人公が最良のマネジャーを求めて世界を巡る」という内容がストーリー仕立てで書かれていて、主人公が駆け回る情景が目に浮かぶようでした。

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 そこを聞いただけでもう、その本を読みたくなったんですよ。この物語はどうなるのかと。恐らく、これを聞いて本屋に走ったのは私だけではないはずです。

 一人ひとりの興味を引き出し、行動変容につなげるには物語が重要だと分かり、上手に人を巻き込むマネジメントの本質に触れた気がします。

 実はこれが「スープストックトーキョー」の立ち上げ時に生きました。私はストーリーや情景で仕事のイメージを構築してみたんです。一人の女性が優しいスープを飲んで一息ついているシーンが頭の中に浮かんできて、そのイメージを基に「スープのある一日」という物語仕立ての企画書を作りました。

 これを具現化したのが、スープストックトーキョーです。「女性が一人でも気軽に入れるファストフード」として1999年に1号店を開業し、現在は54店舗を展開しています。「この仕事は一人じゃできない」という場合でも、ストーリーや情景を共有することによって、仲間が増えて、大きな事業を推し進めることができるんです。

「スープストックトーキョー」は駅ナカを中心に、現在全国で54店舗を展開する(提供/スマイルズ)
「スープストックトーキョー」は駅ナカを中心に、現在全国で54店舗を展開する(提供/スマイルズ)

——他にゼミで印象的だった思い出はありますか。

 実はゼミでは代表(ゼミ代)を務めていました。事前に2人の助手の方に促されて立候補したんですが、今考えるとこれは助手の方の作戦だったのかなと思います(笑)。盛り上げ役が得意だった私がゼミ代になることで、ゼミの雰囲気を良くしたかったのではないでしょうか。やはり、能力が同程度なら、気の合うメンバーと勉強や仕事をすることで良いシナジーが生まれるものです。

 私も次のゼミ生を選ぶ面接官を担当した時に、成績やスキルを見るのではなく、「一緒に机を並べたいか?」という観点から人を選んでいました。仕事のパートナーを選ぶ判断基準もゼミで学んだ気がします。

【慶大時代のゼミ】浅井慶三郎ゼミ
 マーケティングが専門の浅井慶三郎氏のゼミに所属。リーダーシップ論、マネジャー論などを学ぶ。次期ゼミ生の面接などを担当する、ゼミ代を務めた
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