2021年7月2日発売の「日経トレンディ2021年8月号」では、「早稲田・慶応 大学ブランド研究」を特集。私学の両雄である早稲田大学と慶応義塾大学の強みの源泉と、近年の変革に迫っている。まずは、日経トレンディの読者など1500人以上を対象とした独自調査で、早慶に対する意識・イメージを探った。「三田会は稲門会より存在感がある」などといわれるが、実際にはどうか。
※日経トレンディ2021年8月号の記事を再構成
「早稲田出身者は一匹狼が多い」「慶応の三田会は結束力が強い」というイメージはよく聞く。早慶共にこの20年で大学の姿を少しずつ変えてきたが、現時点で卒業生の行動様式や大学のイメージは変わっているのだろうか。そこで編集部では、日経トレンディと日経クロストレンド読者へのアンケート調査を実施。1569人の回答を分析して、早慶卒業生の思いと、他大学出身者が持つ早慶のイメージは何かを探った。
まず分かったのは、早慶出身者の愛校心は共に高く、早慶間ではそれほど差がないことだ。シンプルに愛校心を問う設問では、早慶出身者の9割以上が愛校心が「ある」と回答している。「子供を母校に入れたい」という比率も共に80%弱で、ほぼ同じ。早慶以外の国公立大学、私立大学は早慶に比べれば愛校心のある出身者の比率は低い。
ただし、愛校心がある理由は早慶でやや異なるようだ。早稲田出身者の評価が高いのは、学生時代の課外活動。8割超の出身者が「有意義な課外活動ができた」と回答しており、慶応など他大学が同6割強なのと比べると大きな差がある。この他、「数十年付き合える友人ができた」と答えた人の比率も早稲田出身者(88.6%)は慶応出身者(82.9%)よりも高かった。
一方で「有意義な勉強ができた」と答える人の比率は慶応出身者(71.6%)の方が早稲田出身者(64.9%)より高い。ただ、その比率は国公立大学出身者(77.8%)よりは低い。また、出身大学で満足している点について問う別の質問では、慶応出身者は「研究会(ゼミ)の質」「授業・カリキュラムの質」を挙げる人の比率が早稲田出身者よりも高かった。早稲田出身者は課外活動や交友関係への満足度が高く、慶応出身者はゼミなども含めて総合的に満足しているといえそうだ。
「愛校心」の熱量は近いが理由は異なる!?
では、慶応の卒業生は本当に三田会の恩恵を受けているのか。今回の調査では「卒業生組織が人生で役立ったことがあるか」という質問に対して、慶応出身者はなんと58%が「ある」と回答。早稲田出身者は同37.7%で、20ポイント以上の差があった。ただ、早稲田の回答率も国公立大学出身者(同23.6%)、その他私立大学出身者(同21.6%)よりはかなり高い。早稲田の卒業生組織である「稲門会」を活用したOB、OGも平均よりは多いようだ。この他、同窓会への参加率や、母校に寄付をする人の比率も慶応出身者は高い。
早慶出身者の行動には大きな差が見られる
<早稲田・稲門会についての回答者コメント>
- 北京駐在時に、現地で社外の仲間をつくれたほか、日本に帰任してからも、お互いの仕事に関する相談や情報交換ができている。(50~54歳、法学部卒)
- 会社の中での稲土会。同期の水平な集まり、各組織での垂直な集まりと違い、部門を超えての斜めの集まりがあることにより、有意義な情報が得られる。(65~69歳、理工学部卒)
- サークルの稲門会であるが、恩師を囲む会や、現役学生の支援、OB・OG団体の活動などに参加することができる。(55~59歳、第一文学部卒)
<慶応・三田会についての回答者コメント>
- 三田会は、「職域ギルド」+「異業種交流会」のような組織であり、正直なところ、外部ではとても話せないような内容の情報交換が行われている。(40~44歳、法学部卒)
- 年次三田会で幹事役の端くれとして活動する中で、数多くの友人ができ、60歳を過ぎた今でも頻繁に集まって懇親会で語らったり、野球やラグビーを観戦したり、旅行に出掛けたりして充実した生活を楽しんでいる。(60~64歳、理工学部卒)
- 息子が付属高校から慶応義塾大学へ進学し、保護者会で「保護者も三田会の一員」と言われ、出身大学などを問わずに懇意にさせていただいている。ビジネスに限らず、色々な情報を得る場となっている。(50~54歳、海外の大学・大学院卒)
一方で、「出身大学の偏差値が上がるとうれしい」「スポーツ番組などで母校が出ると気になる」といった設問では、早稲田出身者の方が「当てはまる」との回答が多い。早稲田出身者も母校を気にかけているが、実際に行動に移すのは慶応出身者が多いといえそうだ。
「慶応の経済」は看板学部ではない?
早稲田大学は、1882年の東京専門学校創立時に政治経済学、法律学、英学、理学の4学科があり、創立者の大隈重信が政治家だったこともあって政治経済学部が看板学部といわれる。今回の調査でも、看板イメージの強さは圧倒的で、次点の法学部や、近年学生には人気の社会科学部、高偏差値の国際教養学部などに大差を付けた。
一方の慶応で1890年に大学部ができたときにあったのは、文学科、理財科、法律科の3科。この理財科は、日本で最初の経済学部といわれており、長年慶応の看板学部だった。しかし今回の調査では、4割以上が看板学部は医学部と回答。国内の私大では最難関の学部が、伝統ある経済学部を上回った。なお、39歳以下の回答に限ると、医学部と経済学部の差はかなり縮まり、法学部を支持する比率も増える。『早稲田と慶応の研究』の著者であるオバタカズユキ氏は、「近年の法学部は偏差値が上がり、内部進学者からも人気がある」とその背景を説明する。
また慶応では、偏差値的にはさほど高くない慶応SFCの2学部(総合政策学部・環境情報学部)がトップ5に両方入っているのも興味深い。「注目の学部」を問う設問でも、「慶応の本流ではないとされているが、いい意味での変な人材を輩出してきた」(65~69歳、会社役員)、「塾内での評価は低いが、今後のITやDX(デジタルトランスフォーメーション)などの要になりそうな人物を輩出しそうな感じがある」(55~59歳、自由業)と、名前を挙げる人が多かった。
世代を問わず看板学部だった「早稲田の政経」。慶応はSFCが健闘
「あなたが思う、早稲田大学/慶応義塾大学の現在の『看板学部』はどの学部ですか」への回答を集計。また、39歳以下(133人)の回答だけを別途集計して比較した。早稲田の看板学部は年齢層にかかわらず過半数が「政治経済学部」と回答。慶応は、「医学部」との答えが多いが、39歳以下に限ると「経済学部」と拮抗する。「法学部」も10%を超える。慶応SFCの2学部もトップ5に入るなど健闘した。
では、読者は現在の早稲田と慶応にどのようなイメージを持っているか。編集部で用意した20項目のイメージについて、早慶が当てはまるかを回答する設問で調べた。早慶の差が小さかったのは「優秀な人材を多く輩出している」「子供や親戚に勧めたい」「出身者とは仕事がしやすい」という、大学自体の優秀さを評価する項目。一方で、違いが大きかった5項目を見ると、「資金力がある」「卒業生組織が強い」「都会的でスマートだ」の3項目では慶応が、「スポーツに力を入れている」「変わり者が多い」の2項目では早稲田が、よりそのイメージが強かった。慶応の三田会の強さは、外から見る人にもイメージとしても浸透している。
実態以上に根強い「慶応=都会的」のイメージ
このイメージ調査のうち、20代・30代の回答のみを抽出すると以下のようになった。全年齢での回答と比べて、各項目の肯定と否定の割合が共に増える傾向が見てとれる。若年層の大学イメージは少しずつ変わってきているようだ。
(写真/小西 範和)