
「売らない店」を旗印にOMO(オンラインとオフラインの融合)戦略を進める丸井グループ。今なお小売りのイメージが強いかもしれないが、同社は早くから単なる「百貨店」からの脱却を図ってきた。今では収益の大半を稼ぐクレジットカードを軸にしたフィンテック事業と、新たな未来投資事業を加えた「3本柱」が連動する独自のモデルを形成する。丸井グループはどこに向かうのか。青井浩社長の未来投資ビジョンに迫る。
「店舗とフィンテックを通じて、『オンラインとオフラインを融合するプラットフォーマー』を目指す」
丸井グループは2021年5月、26年3月期を最終年度とする新中期経営計画で、今後の方向性の1つとして、改めてこう明示した。
同社は15年3月期より、従来の商品を仕入れて売る「百貨店型」から定期借家契約で家賃収入を軸とする「ショッピングセンター型」へと、小売事業の一大転換を進めてきた。販売収入だけを前提としないビジネス形態に自ら変わることで、飲食やサービス系を含めた体験軸のテナントを誘致しやすくするためだ。
物販テナントの代わりに増やしてきたのが、新たな体験価値を提供する店。「メルカリ」をはじめ、ネットショップ作成サービスの「BASE(ベイス)」、SNSやネット通販を通じて顧客と直接つながるD2C(ダイレクト・トゥー・コンシューマー)ブランドなどを相次いで誘致してきた。
これらネットネーティブの企業は、店舗を販売の場としてではなく、新規顧客との接点、あるいは既存顧客を含めてエンゲージメント(関与)を高める場として捉えている。その結果生まれたのが、従来の小売りの“常識”を覆す「売らない店」だ。
「売らない店」は客単価2倍以上も
例えば、オーダーメードスーツのD2Cを手掛けるFABRIC TOKYO(東京・渋谷)は、新宿マルイ 本館や有楽町マルイなど5店舗に出店。いずれの店舗も、オーダースーツを作るために必要な体の採寸と生地サンプルの展示だけに特化したショールーム型だ。店員には売り上げ目標すらなく、顧客とのコミュニケーションに全精力を注ぐ。
そうして商品やブランドに対する理解を促進し、その後のオンラインでの購入、さらにはLTV(顧客生涯価値)の向上につなげる。実際、FABRIC TOKYOでは、実店舗とオンラインを併用する顧客の購入単価は、オンラインだけ利用する顧客と比べて2倍以上に達する。また、年間の平均リピート率は44.5%。一般的なファッションブランドは30%程度というから高い水準だ。「オンライン注文の手軽さと同時に、リアル店舗で顧客との結び付きを強めているからこその結果」(FABRIC TOKYO)と話す。
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