
サード・パーティー・クッキーに依存したマーケティングからの脱却を目指し、広告主や広告業界が取り組みを本格化させている。サイト横断でのデータ取得が難しくなる脱クッキー時代、存在が鮮明になるのが「ID経済圏」だ。クッキー規制の影響を受けにくい「ファースト・パーティー・データ」をどれだけ保有できるかがプラットフォーマー、広告主の双方にとって肝要になる。また、広告主はどの経済圏と共存するかの選択を迫られることになりそうだ。
米グーグルは、2022年初頭と予定していたWebブラウザー「Chrome」のサード・パーティー・クッキー廃止を、23年後半までに延期すると発表した。デジタル広告業界の反発により2年弱の猶予が生まれたことになるが、利用者のプライバシー強化に向けた世界の流れはもはや止まらない。グーグルだけでなく、米フェイスブック、米アマゾン・ドット・コムといったITの巨人を巻き込み、膨大なユーザー数を基盤とするプラットフォーマーの、脱クッキー後のネット広告市場を狙う競争が加速することは必至だ。
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一方で、脱クッキーを好機と捉える企業もある。「脱クッキーは当社の広告事業を伸ばすうえで絶好の機会と捉えている」。楽天グループ執行役員の紺野俊介氏はこう意気込む。楽天の会員数、すなわちID保有者数は1億人を超える。ECのみならず、旅行予約、金融、携帯電話といったさまざまなサービスを展開し、物販にとどまらないデータを蓄積している。さらに、ここ数年でポイント制度を既存の小売事業者に導入することで、オフラインのデータ取得にも力を注ぐ。
楽天は17年に電通と共同出資会社楽天データマーケティングを設立し、楽天のデータを活用した広告事業を本格化。従来は楽天市場の出店者向けの広告サービスが中心だったが、徐々にメーカーなど非出店者も活用可能な広告商品を増やしている。21年第1四半期の広告事業の売り上げは、前年同期比24.5%増の368億円と好調だ。
楽天の広告事業の最大の強みは「購買データ」だ。例えばSNSの事業者は利用者が閲覧したコンテンツや検索などの行動を基に、興味関心などを推測して、ターゲティングメニューとして提供する。一方、楽天はどの商品を購入したかというデータを基に会員を抽出して広告を配信できる。「楽天の広告事業の屋台骨を支えているのは楽天市場。市場上の売買データが増えるほど、広告精度も高まる。それを基盤にビジネスを拡大する」と紺野氏は説明する。楽天はIDを軸にデータを蓄積したファースト・パーティー・データを広告事業に用いるため、クッキー規制の影響を受けにくい。
フェイスブックは新たな計測方式を開発
GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazonの頭文字を取った造語)の一角を担う米フェイスブックも、クッキー経済圏からID経済圏への移行に向けた準備を進めている。これまで同社は「Facebookピクセル」という広告配信や効果検証をする仕組みを提供してきた。広告主企業のWebサイトを訪問した、あるいは申し込みボタンを押したといった行動履歴をサード・パーティー・クッキーとして記録し、FacebookやInstagram上の広告配信に活用する仕組みだ。
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