
「(日本全国から)書店ゼロの街をなくす」というビジョンを掲げるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)蔦屋書店カンパニーは、日本中に1500の書店併設店を出そうとしている(現在は約1100店)。アマゾンなどECの攻勢に抗して、顧客に必要とされる書店をどう展開するか──。函館を例に、蔦屋書店カンパニーが考える、主に地方での店の在り方を追った。
蔦屋書店といって多くの消費者が思い浮かべるのは、東京・代官山にある「代官山 蔦屋書店」だろう。あるいは東京・二子玉川にある「二子玉川 蔦屋家電」かもしれない。代官山は併設したカフェや豊富な品ぞろえの書籍に囲まれた“おしゃれな空間”を楽しむ店として、また二子玉川は書籍に加えて家電や雑貨まで取りそろえ“ライフスタイルを提案”する店として、それぞれ際立った特徴を持っている。「ここにしかない発見と体験」ができる場であることを目指して、店がつくられているのだ。
これら大都市にある蔦屋書店では、開店前に潜在的な顧客ニーズを探索している。「この街に欲しい施設」を街行く消費者に尋ねたところ、代官山ではカフェと本が、二子玉川では映画館、家電量販店、ホームセンターなどが挙がった。そしてこれらのニーズの実現を目指して店づくりが進められたのだ(二子玉川では調査後に東急系の映画館ができたので映画館は取り込まなかった)。
既存TSUTAYA店の多くはFC、かつ地方に立地
ところが、この手法は地方に多く存在する人口数十万人の都市では通用しない。「特にない」「何も必要としていない」というような回答が突出して多く、潜在的なニーズをあぶり出すことができないのだ。
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CCCにとって、アマゾンなどECが攻勢をかけてくる今、地方都市の書店をどう生き残らせるかは、都市部よりも実は重大な課題である。なぜならCCCが現在、展開している書店を併設するTSUTAYA店の大半がFC(フランチャイズチェーン)であり、かつその「約60%が地方のロードサイドに立地している」(CCC蔦屋書店カンパニー広報)からだ。つまり、FCを運営しているオーナーに対し、地方都市で「見本」となる店を提示しなければ、今後、FC契約を打ち切られる可能性が生じる。そうなれば、全国に1500の書店併設店を展開するという目標も画餅に帰してしまう。
そこでCCCが、店舗面積2500坪(約8300平方メートル)という超大型店である「函館 蔦屋書店」を2013年に開業する際、当時、北海道TSUTAYA社長で現在カルチュア・コンビニエンス・クラブ蔦屋書店カンパニー社長を務める梅谷知宏氏が考え出したのが、「地域密着&コミュニティー形成」という手法だった。
ものを売る場ではなく人を集める場へ
地域で何らかのコミュニティー活動を続けている人や、その集まりに継続的に参加している人は少なくない。そこでコミュニティー活動を続けている人に声をかけ、函館 蔦屋書店を活動の場所にしてもらうように働きかけたのだ。その際、コミュニティー主催者が参加者から実費を取ることは容認する一方で、蔦屋書店がコミュニティーの内容に注文を付けることも、場所を貸す料金を主催者から取ることもしなかった。
店舗側がイベントを仕込んだり、コミュニティー活動を収益源として見たりはせず、「売り上げより、まず地元の人が集まる場に函館 蔦屋書店を育てることを優先した」(梅谷氏)のだ。言い換えれば、函館 蔦屋書店を、ものを売る場ではなく人が集まる場にしようと考えたのだ。
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