「まず地に足が着いたデジタル化を」。DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれる中、ローソンを率いる竹増貞信社長はあえて慎重な言葉で語る。若手マーケターがDX時代の企業戦略やマーケティング、組織、人材などについて注目企業の経営層に直撃する新連載。第1回はコンビニ大手のローソン。コロナ禍で激動の小売業はどう生き残っていくべきかを聞いた。
DX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれる中、多くの経営者が中期経営計画の中枢にDXを据えている。だが、実際に現場レベルまでDXが浸透し、組織として成果につなげている企業はまだ少ない。そんな中で、経営者はどうDXの推進を図り、そして浸透させ、実践しようとしているのか。さらに、DX時代に組織や人はどうあるべきか。本連載では、日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の若手マーケターが集まる「U35プロジェクト」のメンバーがインタビュアーとなり、現場から感じるDXへの疑問や課題を注目企業の経営陣に直接ぶつけていく。
第1回は、ローソン社長の竹増貞信氏。店舗の省人化・無人化へのチャレンジなども積極的に行う同社を率いる竹増氏に、WACUL取締役兼WACULテクノロジー&マーケティングラボ所⻑の垣内勇威氏が迫る。
ローソン社長
1969年、大阪府生まれ。93年に大阪大学経済学部を卒業後、三菱商事に入社。畜産部に配属され、その後2002年にはグループ企業である米国の豚肉処理・加工品製造会社に勤務。三菱商事の広報部や社長業務秘書を経て、14年にローソン副社長。16年6月から現職
コロナ禍のコンビニ業界から見える課題とは
垣内勇威氏(以下、垣内) DXについて伺う前に、まず小売業、中でもコンビニエンスストア業界において、どのような変化が起き、また課題があると考えていますか。
竹増貞信氏(以下、竹増) コンビニ業界では長らく、人口2000人につき1店舗に当たる、全国5万5000店規模で飽和状態だと考えられてきました。近年は、既にその店舗数に達し、成長が頭打ちではないかといわれています。さらに、人口減少や高齢化社会が進むと共に、胃袋の数や大きさがどんどん縮小していきます。そんな中で、どのようにしてシェアを確保するか、小売業のみならず各業態が苦労をしながら取り組んでいます。
コロナ禍になってから、お客様の生活様式や価値観は大きく変わりました。通勤する人が減り、人の流れが停滞したことで、当然コンビニ業界も影響を受けています。しかし、ピンチはチャンスです。価値観の変化にどう対応するか、この1、2年が勝負どころだと捉えています。
垣内 常に変化の種を捉えることが小売業態の普遍的な課題ということですが、変化に柔軟に対応するには、効率化、デジタル化が重要になると考えます。デジタル化をどう考えていますか。
竹増 変化することなく生き延びられる産業は、地球上に存在しないでしょう。DXもその変化の大きな要素です。
当社は、「マチのほっとステーション」というビジョンを打ち出していますが、お客様との店頭での交流が必要ない店舗もあります。例えば、東京の六本木ヒルズなどのように、IT系人材を抱える企業が多く入る都心の複合ビルであれば、何よりスピードが命。多忙なビジネスパーソンが主なお客様であるこうした店舗では、極論ですが「いらっしゃいませ」といったあいさつすら必要とされない可能性もあります。デジタルを駆使した、レジのない店舗があってもいいでしょう。
一方で、高齢者の方が多く住んでいるエリアもあります。そのような場所では、「おはよう」「おやすみ」というあいさつを楽しみに来てくださる方も少なくありません。そうしたお客様に、人手不足だから接客はしません、スマホを持っていない人は買い物ができません、というわけにはいかない。店舗を展開している社会的責任は、いつもそこにある、身近で安心感のある存在であるということだと考えています。それを担保するために、店に人がいる価値は大きいものです。
とはいえ、人手不足が今後も加速していくのは事実であり、省人化は不可欠。そこで、ホスピタリティーにつながらない作業、人がやる必要のない作業は、ロボティクスやデジタル・ITの技術を積極的に活用していきます。その分、レジでの一言、二言の会話を楽しみにするお客様に「今日もいい1日だったな」と感じていただいたり、町の見守り機能を果たしたりできるような心の交流を大切にしていく。DX時代においても、「マチのほっとステーション」であり続けられることを常に考えていきます。
WACUL取締役 兼 WACULテクノロジー&マーケティングラボ所⻑
1984年生まれ、37歳。東京大学卒。ビービットから2013年にWACUL入社。19年に産学連携型の研究所「WACULテクノロジー&マーケティングラボ」を設立し、所長に就任。新規事業や新機能の企画・開発およびDXコンサルティング、大企業とのPoC(概念実証)など、社内外問わず長期目線での事業開発の責任者を務める
DXより前にやるべきことは足元のデジタル化
垣内 近年はこのDXがバズワードともいえる状態になっており、ツールの導入も進んでいます。ですが、現場で活用しきれていなかったり、掛け声倒れになっていたりして、成果に結びついていない状況も目立ちます。竹増社長が考えるDXへのアプローチは。
竹増 極端な話、「手計算だったものを表計算にしました」というような、デジタル化することを何でもDXというケースも見受けられますが、その考えには違和感がありますね。
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