1951年創業の老舗スポーツ用品メーカー、ゴールドウインが、2022年春夏シーズンに新しく発表したサステナブルなライフスタイルウエア「ナチュラル・ダイ」の「モビリティパッカブル」シリーズが好調だ。22年3~4月の販売目標値に対し120%の売れ行きとなった。
ナチュラル・ダイとは植物由来の天然(ナチュラル)素材から抽出した染料で染めた(ダイ)ことが名の由来。染料の元となる植物は、北海道のタマネギの外皮や、香川県小豆島のオリーブの葉、大分県の竹炭のくず炭など、生産段階で廃棄されるはずだったもの。5色すべてにタマネギ外皮から抽出した染料を用い、ほかの染液との配合によって色が決まる。生地は、漁網や工場などで出た残糸を再生したリサイクルナイロンを使用している。
ゴールドウインには、これまでもリサイクルナイロンを使った製品はあったが、天然素材の染料で染めるのは初めてとなる。というのも、化学繊維を天然由来の染料で染めると色落ちするなど、品質が安定しなかったためだ。
「環境に優しいからといって色落ちしてよいとはなりません。リサイクルナイロンもかつては耐久性に難がありましたが、今ではバージンとそん色ありません。当社の品質テストをすべてクリアし、製品化されたものです」と、開発を担当した事業本部ゴールドウイン事業部ライフスタイルグループマネージャー黒田優氏は胸を張る。
初となるシーズンは、「モビリティパッカブルコート」をはじめジャケット、キャップの3アイテムで、4つの植物由来の染料をもとに5カラーを展開。すべてにはっ水加工を施し、コートやジャケットは身ごろのポケットにくるくると収納できるポケッタブル仕様だ。男女を選ばないすっきりしたデザインは、ビジネスパーソンから旅行まで用途も広い。軽い素材で、携帯用の雨具や防寒着として日常的に持ち運ぶのにもよさそうだ。天然素材由来の柔らかな発色も人気を後押ししていると黒田氏は語る。
「天然色素の染めは紫外線反射量が少なく目に優しい色に染まるそうで、柔らかな色合いを好意的に受け止めていただいていると感じます。特に出足は予測以上。手応えを感じました。発売前は黒やベージュなどの定番カラーが人気になると予想していましたが、オニオンイエローや藍をブレンドしたライトインディゴなど、明るい色味は女性のお客様にも多く手に取っていただいています」(黒田氏、以下同)
プロモーションでは、この新しくサステナブルな製品の魅力を短時間で効果的に伝えるため、SNS(交流サイト)の広告は直感的に訴えかけるビジュアルのインパクトを重視。広告で最初に目に飛び込んでくるのが、製品ではなくタマネギにしたのもそのためだ。
「素材の良さや新しさを、お客様にどう伝えればいいか、かなり悩みました。社内では、『文字をメインにしたほうが伝わりやすいのでは』との声も出ましたが、私が初めて染色メーカーの方から『タマネギで染められる』と聞いたときの、驚きやわくわくをお客様と共有したいと思いました。実際、スポーツ用品メーカーのウエアとタマネギというミスマッチを面白がって店頭に足を運んでくださった方もいらっしゃいました」
ちなみに、コートは3万3000円、ジャケットは2万7500円(ともに税込み)。バージンより高価な再生素材を使い、スペックも高いことを考慮すると決して飛びぬけて高いとは感じなない。事実、同社の中でも値ごろ感のある価格帯に設定したといい、こうした価格戦略も購入の動機につながったのではないだろうか。
ナチュラル・ダイはライフスタイルウエアのため、スポーツ用品メーカーとしての高い機能や耐久性を備えるのと同じくらい、魅力的なデザインや使い勝手の良さも備えたい。例えば、パッカブルは便利だが、機能上どうしてもしわが寄る。そこで、しわが気にならず、むしろ風合いとして楽しめるようにコットンライクな素材を選んだという。
また、ゴールドウインは自社製品のリペアを受け付けており、デザイン設計の段階で直しやすさを考慮する必要がある。最初のコレクションは、後々のアイテムの土台になるため、色や素材、デザインなどのすべてにおいて着地点を見いだすまでにかなり時間を費やしたそうだ。
「機能や耐久性も大事ですが、かっこよくなければ手に取っていただけません。デザイン性と機能の両立には、いつも悩まされますね。コートやジャケットの前立てを細くしましたが、実は幅が狭いほど水が浸入しやすくなります。ミニマルで機能も担保できるデザインをチームで何度も話し合い、ダブルフラップを採用しました。合理的ですっきりとしたデザインであり、かゆい所にも手が届く。そうした製品づくりはゴールドウインブランドが培ってきたもの。そこを評価していただけていると感じます」
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