アサヒグループが、サステナビリティー事業を強化している。2022年1月1日に、新会社アサヒユウアスを新設した。エコカップやサステナブルなドリンクの製造販売などSDGs(持続可能な開発目標)関連の事業を進める新会社だ。20年10月に丸繁製菓(愛知県碧南市)と共同開発した食べられるカップ「もぐカップ」の事業などを拡大する。

丸繁製菓と開発した「もぐカップ」。左がえびせん味、右がチョコ味
丸繁製菓と開発した「もぐカップ」。左がえびせん味、右がチョコ味

 アサヒグループでは、以前よりパナソニックと共同でアサヒビールモルトの副産物である焙煎(ばいせん)麦芽粉末や、国産ヒノキの間伐材などの植物繊維を生かしたエコカップ「森のタンブラー」の開発をはじめ、協業によるサステナブル事業を推進してきた。

 もぐカップもその一つだ。企画開発に携わったのは、アサヒユウアス「たのしさユニット」リーダー・古原徹氏。大ヒットした「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」をはじめ、コンビニで並ぶ三ツ矢サイダーのペットボトルなど、長年容器の開発を手がけてきた。前述の「森のタンブラー」の開発でも中心的存在で、日ごろから容器開発者としてゴミを減らす方法はないか思案していたという。

 「容器包装に関わる技術者として、飲み終えたらゴミが増えるのではなく、社会がよくなる技術や取り組みを進めてきました。森のタンブラーは広がりを感じる一方で、エコカップを持ち歩くのは不便という声も聞こえてきました。2019年の夏ごろ、食べられるコップなら飲んだ後にゴミが出ないなと思い(笑)、“食べられる食器”で検索をかけて、最初にヒットしたのが丸繁製菓さんの『イートレイ』でした。すぐに電話をかけると、単なる面白さではなくゴミを減らしたいという思いから作られていると分かり、トントン拍子で共同開発の話が進みました」(古原氏、以下同)

 丸繁製菓は、自社製品の食べられる器イートレイをベースに試作品の製作などを行い、デザインの提案や、漏れや強度のテスト、評価などをアサヒビール側が担った。丸繁製菓も食べられるコップの構想はあったが、飲料水の販売をしていなかったことから商品化には至らなかった。作ったところで販促部隊もなく、余剰在庫になるリスクもあるからだ。アサヒビールからの声がけは渡りに船だったのかもしれない。

 もぐカップはS、M、Lの3サイズで、味はプレーンのほか、えびせん、チョコ、ナッツの4つを展開している。このサイズや味にたどり着くまで、かなりの試行錯誤を繰り返したといい、なかでも飲み物を入れるカップとしての強度、耐水性の担保は難関だったそうだ。

 「容量が大きくなるほど液体が重くなり漏れのリスクが高くなります。当初は、缶ビール1本が入る350ミリリットルを目指しましたが、ものの5分で漏れ出してしまいました。1時間の耐水を目安に試行錯誤を繰り返した結果、Lが200ミリリットル、Mが100ミリリットル、Sは50ミリリットルに落ち着きました。特にこだわったのは薄さです。イートレイは厚みが5ミリメートルほどあり、試食すると結構ボリュームがあると感じた。食べ切れなければ結局廃棄されゴミになる。耐水性を持たせつつ、半分くらいまで薄くするため、丸繁製菓さんにはかなり無理をお願いしました。長年おせんべいやモナカを作ってきた職人の技術や勘と、我々のデータなどを共有しながら、二人三脚だから成功できたと思います」

 強度と薄さを両立させるカギは、焼き上げる際の温度と圧力だった。もぐカップの主成分であるじゃがいもでんぷんは、高い熱を加えたときに膨張する性質がある。膨張しないように強く圧力をかけながら焼くことで、型に触れた部分に薄くて固い膜ができ、耐水性が高まるという。

 「アサヒユウアスでは、多少単価が高くても国産で作れるものは国産にこだわりたいと思っています。じゃがいもでんぷんは産地によって物性が微妙に異なり、イートレイでも使われている北海道産はもぐカップの耐水性を上げることが分かりました。最初にこちらから国産を指定したわけではありませんが、よい偶然が重なりました」

 もぐカップは飲んだ後に食べられて完結するため、味も重要だ。20年10月に試作品が完成し、同年11月、丸の内のコワーキングスペース「ポイントゼロ」でテスト展開した。その際、利用者からの意見を反映し、ヘーゼルナッツの粉を練り込んだナッツ味を加えることにした。

飲んだらそのまま食べられる。手前にはお酒を入れてみた
飲んだらそのまま食べられる。手前にはお酒を入れてみた

 「どんな飲料にも合うプレーンのほか、イートレイのえびせん味がおいしかったので、カップも作りたいと思いました。エビの香りがするので、イカ徳利(とっくり)ではないですが日本酒を入れて飲むと、つまみ要らずです(笑)。ビールやワイン、ウイスキーといったお酒との相性が良く、えびせんの塩気と対照的な甘みのあるチョコも欲しいなと。テスト展開で、女性の皆さんから健康的な素材である、ナッツ類が入ったコップも欲しいという声を頂きました。運搬上で生じた見えないヒビが原因で漏れが起きることも分かり、製造ラインにレシピのアレンジをお願いするなど、いろいろとフィードバックがありましたね。あれがなければ、怖くて販売に踏み切れなかったくらい有意義なものでした」

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