創業82年の老舗バッグメーカーのエース(東京・渋谷)が、サステナブルスーツケース「プロテカ マックスパスRI」を2022年3月中旬から販売する。これは、エースのスーツケースブランド「プロテカ」の新作で、マツダの使用済み自動車から出たバンパーを再利用した業界初のスーツケースだ。

 旅行カバンと自動車メーカーという、一見まるで接点がないように思える異業種の協業がなぜかなったのか。新作「プロテカ マックスパスRI」(以下、マックスパスRI)の開発に携わったエース・MD統括部次長の吉原勇一氏は、マツダからの働きかけがきっかけだったと語る。

 「2018年に、ある会社を通してお声がけいただき、使用済み自動車のバンパーを再生したポリプロピレン(以下、PP)のペレットの活用についてお話をいただきました。双方ともSDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれる以前から、工場で出る廃材などを自社で再生活用してきた。マツダさんは、使用済み自動車から回収したバンパーの材料を社外でも生かしたいと考え始めていた時期で、弊社も環境に配慮した象徴的な製品が欲しいと思っていたため共同開発する運びとなりました」(吉原氏、以下同)

プロテカマックスパスRIは2022年3月中旬から販売する
プロテカマックスパスRIは2022年3月中旬から販売する
マツダの使用済み自動車のバンパーから作っている
マツダの使用済み自動車のバンパーから作っている

 バンパーを粉砕し、塗膜を剥離・除去して純度の高いPPペレットへと再生させるのはマツダが協力会社と一緒に開発した技術だという。エースには、ペレットとして納品される。バンパーは自動車1台分で、スーツケースが約2つ作れるそうだ。

開発に3年を要した理由

 スーツケースもバンパーも丈夫さが求められる製品のため、相性は良さそうだが、結果として開発に3年を要した。これは、スーツケースでは異例の長さだという。理由の1つが、素材の違いだった。

 プロテカはこれまで、シェルと呼ばれるボディーに、軽くて成形しやすいポリカーボネートとABSの混合樹脂を使うことが多かった。素材の特性を生かして、シート状にした樹脂を真空成型という方法で成型する。エースではかつてPPシートを真空成型した経験があり、比較的金型のコストが抑えられる真空成型を試みた。しかし、マツダから提供されたPPペレットでは物性の違いから思うような結果には至らず、試行錯誤の結果、金型に流し込むインジェクション成型に落ち着いたという。

 「バンパーは基本的に傷つけないように使われるものですが、スーツケースは最初から傷つくのが当たり前ですよね。それぞれ丈夫さを求められるものですが、出発点が違うんです。金型をゼロから作るとなるとコストがかかるうえ、環境配慮という点にももとる。そこで別の機種の金型を流用することにしましたが、そこからもPPペレットの流動性や収縮率の違いに苦労しました。型に流し込んで固まるときに生じる縮み具合の差が従来とは異なるため、後から取り付けるキャスターなどを何度も微調整しました。かなり手間暇をかけたので、社内から『お前の趣味でやってるんじゃないんだ』と、厳しい言葉も聞こえてきましたね」

エース・MD統括次長の吉原勇一氏
エース・MD統括次長の吉原勇一氏

 冷ややかなまなざしを向けられながらも、商品開発を続けたのはなぜか。ものづくりをする人間として業界初の製品に携わりたい気持ちもあっただろう。ただ、それ以上に「環境に良い取り組みを、できることから着実に実現しなければいけないという思いがありました。これを推し進めないと、いずれメーカーとして生き残れなくなるという危機感も持っています」。

 エースでは20年、これまで長年行ってきた国内工場での資源循環システムやリサイクルといったサステナブルな取り組みを見直し、「ACE SAVE THE EARTH PROJECT」として再構築した。マックスパスRIは、そのプロジェクトのいわば目玉製品でもあり、同社が00年から取り組んでいる「エースリサイクルプロジェクト」の対象製品にもなっている。

 「エースリサイクルプロジェクト」とは、プロテカなど一部のエース製スーツケースを購入すると、使用済みスーツケースを送料のみで引き取ってもらえるというもの。回収されたスーツケースは付属品などを取り外した後、製紙会社のボイラー燃料としてリサイクルされる。

 リサイクルの際、真空成型のスーツケースは、金属フレームなど異素材の部品が多くリサイクルの過程で手間がかかる。その点、インジェクション成型は隅々まで同じ素材で作るためリサイクル時の負荷を軽減できるという。22年4月から施行される「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック新法)」では、分解の容易化や素材の単一化でリサイクルしやすい設計を促す「環境配慮設計」が求められると、22年1月14日に閣議決定された。マックスパスIRは、まさに環境配慮設計されており、開発に苦労した結果、よりエコな製品になったようだ。

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