2021年12月5日のサッカー「2021明治安田生命J3リーグ」最終節、富山県陸上競技場では、ある実証実験が行われていた。循環型食器「edish」を定常的に利用していくための実験だ。食品残渣(ざんさ)で作り、使用後は堆肥化できるのが特徴。丸紅が開発したものだ。

 脱プラスチックを目指して、製品開発が盛んな昨今。丸紅は“何度でも生まれ変わる”再生可能な食器「edish」をリリースした。edishは、食品会社が製造する過程で生じる食品残渣を用いた使い切りの食器で、使った後はそのままコンポスティング(堆肥化)することができる。口にできる食品残渣に限定した安全性の高さに加え、土にかえるまでに半年からそれ以上かかることも多い生分解性プラスチックに比べ、短期間で循環できる。

再生可能な食器「edish」は丸紅が開発した
再生可能な食器「edish」は丸紅が開発した

使用後は、堆肥化し循環できる

 企画開発したパッケージ事業部パッケージ事業課担当課長の簗瀬啓太氏は、edishの特徴は大きく2つあるという。1つ目は、捨てられるはずの食品残渣を使っていること。2つ目は、100%ではないが回収して、堆肥化し循環できることだ。

 長年、化学素材畑で営業を担当してきた簗瀬氏がedishの開発に着手したのはなぜか。

 そもそもは、2019年度に丸紅グループ内で行われた第2回のビジネスプランコンテスト(以下、ビジコン)に応募し、事業化挑戦権を獲得したことが始まりだった。ビジコンには100組以上が応募し、ファイナルに残ったのは9組、予算がついたのはわずか3組だった。その1つがedishで、社内外の審査員から「世の中の潮流を捉えており、広がりが感じられる」と評価されたことからもedishへの期待のほどが分かる。

パッケージ事業部パッケージ事業課担当課長の簗瀬啓太氏
パッケージ事業部パッケージ事業課担当課長の簗瀬啓太氏

 大手企業は近年SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みを強化している。21年10月31日から、英グラスゴーで開催された「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議」、いわゆる「COP26」では、さらなる脱炭素への道が鮮明化された。総合商社である丸紅も、その動きを加速的に求められるだろう。すでに同社は18年、社長直轄の「サステナビリティ推進委員会」を設置し、現委員長は古谷孝之代表取締役常務執行役員CFO(最高財務責任者)が務めている。19年には、コーポレート・スタッフグループ(CSグループ)内に新組織として、営業本部、CSグループ、支社・支店・現地法人と連携しながら、グループ内の推進を一元的に担うサステナビリティ推進部を新設するなどして体制強化を図ってきた。そのような社内の空気も、ビジコンでedishが採用された結果と無関係ではないだろう。

 edishの開発は、簗瀬氏が担当していたセルロースナノファイバーの営業先であるパルプモールドメーカーを訪問したことがきっかけであった。また、ある製粉会社より大量に出る小麦ふすま(小麦の皮)を何かに活用できないかという話も聞こえてきたという。

 「食品残渣であるふすまとパルプモールドという金型成形の技術を合わせれば、今までにない再生可能な食器が作れるだろうとプラス産業(静岡市)に製造を依頼しました」(簗瀬氏、以下同)

 簗瀬氏が所属するパッケージ事業部の主軸は、再生率95%以上ともいわれる段ボール事業で、リサイクル意識も定着していた。そうした総合商社ならではの複合的な条件がうまく結び付き、誕生したのがedishというわけだ。

編集担当の自宅で使ってみた。ボウル、皿、コップ、スプーン、フォークなどがある
編集担当の自宅で使ってみた。ボウル、皿、コップ、スプーン、フォークなどがある
手触りは、木のような感覚。触っていると気持ちが良い
手触りは、木のような感覚。触っていると気持ちが良い
1人分のカレーを盛り付けるのにもちょうど良い
1人分のカレーを盛り付けるのにもちょうど良い
かなり熱い湯豆腐をボウルに入れてみた。持つと熱いが、ボウルの蓋をトレーのように使うといい感じだった
かなり熱い湯豆腐をボウルに入れてみた。持つと熱いが、ボウルの蓋をトレーのように使うといい感じだった
ボウルは潰せるように段が入ったデザインにしたという。簡単に押し潰せる
ボウルは潰せるように段が入ったデザインにしたという。簡単に押し潰せる

 edishで、こだわったことの一つがデザイン性の高さだ。利用者が積極的にSNSで発信したくなるような、使うこと自体がおしゃれな製品にする必要があると考えたため。デザインに関しては、博報堂などにも協力を仰いだという。

 これまでに化学繊維業界とも長年携わってきた簗瀬氏は、世界的なファッションブランドほどサステナビリティーに力を入れていることを知っていた。21年9月、米「VOGUE」編集長が主催し世界のファッションシーンが熱視線を注ぐチャリティーイベント「メットガラ」で、共同ホストを務めたビリー・アイリッシュが身に着けたドレスもその象徴だろう。衣装提供を申し出た「オスカー・デ・ラ・レンタ」に、着用の条件としてアイリッシュは、今後一切の動物の毛皮を扱わないことを条件にしたというニュースは大いに称賛された。つまり、それくらい世界ではサステナブルなアクションは強力な企業アピールになるのだ。  

 「環境へ配慮した製品だと分かりやすいよう、自然の色みを生かし、かっこいいデザインにこだわりましたし、edishの魅力にもなっているのかなと。ボウル型容器は、おしゃれなアウトドアグッズなどで見かける、シリコン製の折りたためる食器から着想しました。蛇腹の構造のため、使用後に潰すのも簡単です。使った方から『コンポスト装置に入れるとき、潰す体験を通して自分が循環の一部であることを感じられた』と言っていただけたのはうれしかったですね」

 しかしながら、大手飲食店や弁当チェーン、スーパーマーケットなどはコストパフォーマンスこそが最重要。一般的な容器と比べ倍のコストがかかるedishが食い込むのは至難の業だ。「安ければよいという考え方がまだまだ根強い。デフレの影響も強く感じる」そうで、月100万枚の販売を目標にしているが、まだ月数千枚程度だ。

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