ソニー・ミュージックエンタテインメント(SMEJ)が視聴データやSNS(交流サイト)などを活用した新たなヒットの仕組みづくりの体制を強化している。独自のデータ解析ツールを構築し、従来なら見つけられなかった“小さなヒットの芽”をいち早く探しだし、プロモーション施策などにつなげている。

 データベースを構築してマーケティング施策を主導するのはSMEJ子会社のソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド。データ分析プラットフォームである「GROOVEFORCE」を独自開発し、グループ内でのデータ活用を推進する。CD販売や音楽ストリーミングの再生状況、グッズの売り上げなどを可視化して、マーケティングへの活用を拡大している。

 支えているのは、同社のアナリティクス本部マーケティングに所属する分析チームだ。グループ会社の経営層が売り上げデータなどを把握するための「GROOVEFORCE 360」、CDやストリーミングの売り上げなど現場の担当者らが分析できる「GROOVEFORCE ANALYTICS」、アーティストのオフィシャルサイトに訪問した人の属性(デモグラフィック)や興味関心などを可視化できるツールである「GROOVEFORCE ENGAGEMENT」、AI(人工知能)を使って販売売り上げなどを予測できる「GROOVEFORCE FORECAST」を活用して、機動的なマーケティング施策を進める。

 GROOVEFORCEの利用で大きく変化してきたのは、音楽マーケティングの現場だ。例えば2022年夏のヒップホップグループnobodyknows+の『ココロオドル』は、ツールの活用から“ヒットの芽”を見つけ出し、マーケティング施策につなげた一例だ。同社取締役執行役員マーケティング本部&アナリティクス本部担当の北山智之氏はこう振り返る。

 「『ココロオドル』の再生回数は、夏になると急に伸びてくる、ということをデータ分析チームが発見したんです。これは何でだろうと調べてみると、音楽ストリーミングサービス内で提供されている特定のプレイリストで21年もバズったし、20年もバズったことが分かりました。ヒットチャートには出てこないレベルではあるのですが、明らかにバズりの傾向が見られました。(SMEJが持っている)音楽カタログを活用している部門と話をして、この夏は仕掛けよう、という話から始まったんです」

ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド、取締役執行役員マーケティング本部&アナリティクス本部担当の北山智之氏。SMEJのデジタルイノベーショングループ代表も兼ねる
ソニー・ミュージックマーケティングユナイテッド取締役執行役員マーケティング本部&アナリティクス本部担当の北山智之氏。SMEJのデジタルイノベーショングループ代表も兼ねる

 夏になると特定のプレイリストの再生回数が上がってくることはこれまでもあった。季節が巡れば気分も変わり、聴きたい曲だって変わる。『ココロオドル』が登録されていたのは、いわゆる“夏っぽい曲”が並ぶプレイリストだった。

 プレイリストで曲の再生数が増えている「小さなバズり」をヒットにつなげるにはどうすればいいいか――。「今、顕著なのはSNSで増幅されること」(北山氏)

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