KADOKAWAグループが好調だ。2022年3月期は、海外事業や電子書籍の成長がけん引して過去最高益を記録した。22年7月29日に発表した2023年3月期 第1四半期決算でも、四半期ベースの売上高、営業利益、営業利益率がKADOKAWAとドワンゴの経営統合以降で最高となった。同グループが掲げる「グローバル・メディアミックス」戦略のICT基盤を支えるのが、子会社であるKADOKAWA Connectedだ。
22年4月に社長 CEO(最高経営責任者)に就任した安本洋一氏は、高収益の柱の一つである、電子書籍ストア「BOOK☆WALKER(ブックウォーカー)」を設立した立役者で、電子雑誌のサブスクリプションサービス「dマガジン」を立ち上げた人物でもある。新体制となったKADOKAWA Connectedは、KADOKAWAグループのDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略において今後どのような役割を担っていくのだろうか。安本氏と同社CDO(Chief Data Officer)の塚本圭一郎氏に話を聞いた(インタビューは22年7月4日)。
吾妻拓(以下、吾妻)KADOKAWAグループは、海外での書籍販売が好調ですね。この要因は何ですか。
安本洋一氏(以下、安本) コロナの環境的な要因が大きいです。外出の機会が減り、日本のアニメの視聴機会が大幅に増えました。そこで、日本のコンテンツブームが起き、アニメを起点に原作への需要が高まったんですね。コミックとライトノベルが非常に強い。紙書籍と電子書籍のどちらも好調です。
電子書籍ストア「BOOK☆WALKER(ブックウォーカー)」は海外でも展開しており、「BOOK☆WALKER Global」と「台湾BOOK☆WALKER」があります。課金ユーザーは、前年対比で50%以上伸びました。これまでは、翻訳本を電子化するという流れだったのですが、今後は、翻訳電子書籍を日本と同時に発売し、人気が出たものを紙の書籍にしていく逆の流れが主になっていきます。そのための翻訳体制も強化します。
吾妻 22年5月に発表した中期計画では海外の売上比率を高める計画ですね。
安本 22年3月期は、売上高2212億円のうち海外売り上げは289億円(13%)でした。これを25年には、売上高2500億円のうち海外売り上げを500億円(20%)に高める計画です。
日本コンテンツの需要の高まりは北米が中心ですが、中国、台湾、タイ、マレーシアといったアジア圏も好調です。紙書籍に関しては、各拠点で現地の販売手法に合わせたプロモーションを展開しています。電子書籍では、BOOK☆WALKERの子会社であるGeeXPlus(ギークスプラス)が、英語圏ユーチューバーによるインフルエンサーマーケティングを実施しており、非常に効果的です。
編集者の属人的な仕事をDX化する難しさ
吾妻 22年4月にKADOKAWA Connectedの社長CEOに就任しました。KADOKAWA Connectedはどのような会社なのですか。
安本 親会社であるKADOKAWAがDXを実現するためにICTサービス、Big dataサービス、デジタル技術を使った働き方改革支援を提供する戦略的子会社として、19年にスタートしました。総合エンターテインメント企業であるKADOKAWAは、出版事業を祖業としており、編集者のプロ集団です。紙中心のアナログ文化の中で価値を生み出していたこともあり、デジタル技術やデジタルツール活用については慣れ親しんでいない人も多くいました。そうしたグループ企業に質の高いICTサービスの提供とDX推進を支援するというミッションは創業当初から変わっていません。
吾妻 安本さんに求められている役割は、どのようなものなのですか?
安本 22年6月までKADOKAWAのCFO(最高財務責任者)をやっていたこともあり、KADOKAWAの事業全体を見る立場でもありました。KADOKAWA ConnectedのCEOとしては、KADOKAWAとのシナジーをより高めていくことが主な仕事になると考えています。社内のインフラ整備や業務改革など、業務サイドのDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることで、KADOKAWAの事業サイドとの関係を深めていきたいと思います。
私は、編集者出身なのですが、BOOK☆WALKERの設立などの経験の中で、編集者とエンジニアの会話のプロトコルの違いを感じてきました。編集者とエンジニアが大きな目標を共にして、お互いの強みを尊重し合える視点で意思伝達できるよう、通訳のような役割を担いたいと考えています。
吾妻 業務サイドのDXの難しさはどこにあるのですか?
安本 編集者は、どちらかというと属人的な仕事をしたがるものです。しかしDXは逆で、仕事を標準化していって生産効率を上げることが求められます。今進めている編集者の業務支援プロジェクトでは、標準化できる業務と、編集者のオリジナリティーが求められる業務とを分け、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を実現させようとしています。
吾妻 データ活用への取り組みも積極的ですね。
安本 データを活用して、うまくいった事例はKADOKAWAグループにはいくつもあります。例えば、BOOK☆WALKERの時の話になりますが、コミックは1話だけ無料にするのではなく1巻全部を無料にした方が、より有料購入につながるというデータを我々は持っていました。そのデータを基に、無料の範囲を広げるよう出版社を説得しましたが、なかなか理解してもらえず、浸透するには時間がかかりました。
データを活用する中で、BOOK☆WALKERでポイント付与する際に、500ポイントよりも300ポイントの方が継続率が高かったという面白い事例もありました。300ポイントでは購入するのに少し足りないので、アカウントを作ってクレジットカードを登録してくれるユーザーが多かったんですね。
この記事は会員限定(無料)です。