日本音楽著作権協会(JASRAC)が2022年6月28日、ブロックチェーン技術を活用した存在証明が受けられる楽曲情報管理システム「KENDRIX」のクローズドβ版を開始した。今後はJASRACとの契約手続きのオンライン化も進める。その狙いは何か、JASRACはどう変わるのか、22年6月末に理事長に就任(※)した伊澤一雅氏に聞いた。
KENDRIXでシステムに音源ファイルを登録すると存在証明付きで履歴管理ができ、楽曲の無断利用やなりすまし被害、盗作・盗用を防ぐのに役立つ。
サービスの主な対象は、ネット上で楽曲制作からディストリビューションまでを個人で行う日本の音楽クリエーターだ。そうした個人クリエーターが安心して楽曲を発表できる環境を整えるとともに、JASRACとの契約を簡素化してネットのみでできるようにするなど、適正な対価を受け取るのに必要な各種手続きのハードルを下げることも目的としている。22年10月に正式スタートする予定だ。
※取材時(22年6月10日)は常務理事。資料分配本部統括、情報システム担当、デジタル技術活用検討プロジェクトマネージャー、GDSDX開発事業対応プロジェクトマネージャーを担当
ネットで活動する個人クリエーターに存在証明を発行
吾妻拓(以下、吾妻) KENDRIXとはどういうサービスなのですか?
伊澤一雅氏(以下、伊澤) 楽曲の無断利用やなりすまし被害を防ぐことなどを目的に開発しました。ユーザーはまず、自分の作った楽曲ファイルをアップロードします。ファイル形式は基本的にWAVで、制作途中の音源でも登録できます。タイトルなどの情報を付けたり、どんどん手直ししたりと、そうした履歴情報付きでバージョン管理できます。
楽曲を登録すると「存在証明」を取得できます。音楽ファイルのハッシュ値、タイムスタンプ、ユーザー情報などがブロックチェーンに登録され、いつ、どのユーザーによって登録された作品なのかをJASRACが保証できます。IDが付き、存在証明を表示するページのURLが発行されるので、それを公開することで、他者に“この楽曲はここに存在証明付きで登録されている”ことを示せます。例えば「この曲は私が作りました。ぜひ使ってください」というときに、その存在証明ページを見てもらうことで、自分が作った楽曲であることを示せます。
吾妻 それが、なりすましや無断利用の抑止になるわけですね。なりすましはそこまで難しい問題なのですか。
伊澤 ネットで“なりすまし”をされると、作者が自分の作品であることを証明しなくてはなりません。しかし個人だと、動画配信サイトや音楽ストリーミングサービスから正当な権利者であることを証明してくれと言われても、対応するのが難しいんです。
例えばレコード会社などの企業を通じてなら、正規の手続きを踏んで申請することで対応できるでしょう。しかし個人でそうした手続きは難しいし、匿名性もなくなります。個人クリエーターが個人クリエーターのままで、自分の楽曲であることを証明して発表できるプラットフォームが必要です。
この記事は会員限定(無料)です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー