コロナ禍では、対面営業の自粛などで新規契約が減少していた生命保険業界。アフラック生命保険(東京・新宿)は紙媒体のダイレクトメール(DM)からの申込件数が1.5~1.7倍に増加した。封書の開封率向上の裏にあったのがアフラック流のDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。
山ほどあるデータを有効活用できなかった
アフラックの保険契約者数は1500万人に上るが、アウトバウンドトライブ プロダクトオーナーの吉田朝日氏によると、全社的に10年以上、データをうまく活用できないという課題を抱えていたという。その中でも吉田氏は既契約者向けにDMや電話をするビジネス領域を担当しており、データが活用できないことから、2つの課題があったと話す。
1つは、顧客のニーズに合わせたコミュニケーションが取れないことだ。「会員数やそれに伴うデータ量が多いものの保険会社はデータの管理がかなり厳しく、お客様の情報の種類によっては、例えば営業は病気の情報を閲覧できないなど、部署によってアクセスできる範囲が限られている」と吉田氏。扱える顧客情報が少ないため、その情報だけを使ってDMなどを打とうとすると、どうしても一般的でマス的なコミュニケーションしかできなくなり、客のニーズに合わせたコミュニケーションが取れなくなっていたという。
そうなると、顧客側も不満がたまってくる。「昨日保険代理店に健康診断に引っかかってしまったという話をした、1カ月前にどこそこの部署でこういうやりとりをした、という情報があっても、それを全く使えないままコミュニケーションを取る形になる。お客様からは『なんで同じ保険会社なのにこんなDMしか送ってこられないの?』という意見も寄せられた」(吉田氏)。
そこで、ユーザーからのクレームを防ぐためにDMを送らないよう制御する処理を実施したが、DMを送れる人がどんどん減っていき、新規契約に結び付ける機会も減少していったという。
では、どのようにして巻き返したのか。注目したのが、「アジャイル」という手法だ。アジャイルとは、システムやソフトウエアの開発など、主にITの現場で利用される用語だ。最初から最後まで厳密な計画を立てて開発するのではなく、大まかな計画を立て、フェーズごとの小単位で実装とテストを繰り返して開発をすることで、従来の開発時間を短縮できる。簡単に言えば、トライ・アンド・エラーを繰り返しながらサービスや製品を形にしていくというわけだ。
「もともとアフラックでは、機動的に物事を決めていくためには縦割りの組織だと限界があることに課題感を持っていた。そこで、役員を海外に派遣してアジャイルを活用している企業に視察。その手法を学んだ」と同社広報部 広報課 課長代理の森脇敬介氏は話す。これが各部署でのプロダクトの開発に有効と考え、19年1月にアジャイルを実践していくための仕組みや環境を整えるための専門組織「アジャイル推進室」を設置。19年7月に正式な組織としてアジャイルのチームが会社の組織として成立した。
アジャイルでは従来の機能別の組織ではなく、機能横断型でチームを組む組織となっているのが特徴だ。「トライブ」という通常組織における部相当の組織があり、その下に「スクワッド」と呼ばれる課相当の組織がある。同社では現在10のトライブが動いており、1つのトライブには複数のスクワッドが設置されていることもあるという。各スクワッドには成果創出に責任を負うPO(プロダクトオーナー)という責任者が存在し、21年11月1日時点で31人だ。吉田氏はその中のアウトバウンドトライブのプロダクトオーナーを務めている。
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