NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)市場は今後どう拡大していくのか。希少価値があるもの、作品性が高いものはもちろんだが、広く普及するには、利用者の利便性向上に直結していることも鍵。NFTを分かりやすく、気軽に利用できる新しい経済圏をつくる取り組みも加速している。キーワードの一つがメタバース(仮想世界)だ。

 今後、メタバースシステムをSaaS(Software as a Service)で提供したいと考えている――準備を加速しているのはエイベックスだ。傘下のエイベックス・テクノロジーズ(東京・港)は21年8月6日、オンラインライブ配信サービスの「Z-aN(ザン)」で開催するチケットにNFTを導入すると発表した。9月18~20日に開催したバーチャルアイドルオンラインライブフェスの「Life Like a Live!2」でNFT化されたデジタル写真付きのチケット発売した。

エイベックスは、「Z-aN(ザン)」で開催のチケットにNFTを導入した
エイベックスは、「Z-aN(ザン)」で開催のチケットにNFTを導入した

 「これはメタバースへの布石」と話すのは、エイベックス・テクノロジーズ、BlockChain事業グループ ゼネラルマネージャーの山本周人氏だ。同社は、2019年5月の設立時からブロックチェーン(分散型台帳)の事業を掲げ、NFT事業基盤の「A trust」を19年夏に発表している。A trustは、ブロックチェーン技術を使い、デジタルコンテンツに証明書を付与できる。朝日新聞社や電通、博報堂などが参加する「Japan Contents Blockchain Initiative」(2020年2月発足、JCBI)が運営するブロックチェーンを使い、NFTの利用を拡大するための課題解決を目指してきた。目指しているのは、リアル世界のような取引をデジタルの世界でも実現することだ。

 「メタバース」には様々な企業が取り組んでいる。米Facebookがメタバースに取り組むと宣言してから、国内でもバズワードとなった。以前ならVR(仮想現実)の仮想空間といっていたものが、最近はメタバースといわれていると理解していいだろう。グリーも今後100億円を投資することを発表するなど、先を争うように新規発表も相次ぐ。こうしたメタバースをブロックチェーン上で運営して、暗号資産が使えるような新たなウェブベースの世界は「Web 3.0」といわれて注目キーワードになっている。

 メタバースの関連ビジネスは今後大きな拡大が見込める分野であり、デジタルコンテンツの流通のためにNFTは不可欠。広く使えるようにしたいところだが、そのために解決すべき課題は大きく2つある。

 1つは「デジタルコンテンツの価値が安定していないこと」(山本氏)。「CDなら、自宅のコンポでもポータブルCDプレーヤーでも聴けたが、今はデジタル作品が購入したプラットフォームでしか利用できなかったりする。デジタルは便利になったはずなのに、コピーされるとビジネスにならないのでコピーをさせなくなった」(山本氏)。1つのコンテンツを様々なプラットフォームで利用できるようにするには、そのコンテンツが誰のものかが明確になっている必要がある。「所有していることが証明されることは、非常に大きなブレークスルー」(エイベックス・テクノロジーズの岩永朝陽代表取締役)となる。

 2つ目は権利の侵害が起こっていることだ。ブロックチェーンの仕組みを使えばNFTの改ざんは難しいが、NFTは誰でも発行できる。そのため「正規でないコピー品をNFT化してマーケットなどに出品する例も少なくない」(山本氏)。

 エイベックスはこの2つの課題を「A trust」と「AssetBank」という仕組みを組み合わせて解決しようとしている。NFTを発行できるA trustは、正規品の所有者に対してデジタル証明書を発行する。デジタルコンテンツの2次流通の際にも、真贋(しんがん)の判定や証明書の移転に使える。

エイベックス・テクノロジーズ BlockChain事業グループ ゼネラルマネージャーの山本周人氏(左)、右は同社の岩永朝陽代表取締役
エイベックス・テクノロジーズ BlockChain事業グループ ゼネラルマネージャーの山本周人氏(左)、右は同社の岩永朝陽代表取締役

 AssetBankは、正規契約のための仕組みだ。権利の保有者とショップなど当事者同士が、正規品であると確認して契約できる仕組み。JCBIが運用するブロックチェーン上で利用できる。A trustとAssetBankはそれぞれ別々に利用できるが、自社のデジタルコンテンツが正規品であることをAssetBankの契約で示し、A trustで発行したNFTを市場に出せる、というわけだ。

 その先に見据えるのがメタバース経済圏だ。購入したデジタルコンテンツをメタバース内で活用できるようにする。「購入したデジタルコンテンツが価値を持って使えることを、体験としてきちんとつくり上げることが非常に重要だと思っている。IP(知的財産)軸、コンテンツ軸に持ってきてコンテンツのメタバースみたいなものをつくっていきたい」(岩永氏)。

 岩永氏は「これまでメタバースはVRなどの視覚的な仮想空間にとらわれてきたが、それだとお金がかかりすぎてマネタイズできないという状態だった」と説明する。「NFTを使った個人間の取引もできるようになり、エコノミーレイヤーがひも付けば、それ以前とは明らかなに違う世界が実現できる」(岩永氏)

 例えば、アドベンチャーゲームである『マブラヴ』のファン向けに事前告知なしで物販すると、1日で活発な購買活動につながったりする。熱狂的なコンテンツであれば、IP単位でメタバースをつくり経済圏をつくることもできる。「我々はIP単位のメタバースを複数つくることを目指したい」と岩永氏。今後詳細を発表する見通しだ。

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