マーケティング分野でのデジタル活用が進む中、今後のかじ取りに悩む企業は少なくない。この連載では先端事例の取材から、明日のデジタル戦略につながるヒントを探る。聞き手は日経クロストレンド創刊編集長の吾妻拓。初回は2021年6月に組織改編を行った映像・音楽ソフトメーカーのポニーキャニオン(東京・港)だ。
ポニーキャニオンが2021年6月、組織改編を行った。目玉の一つが、「マーケティングクリエイティブ本部」の新設。従来の宣伝部門とデジタル営業部門を一体化して、音楽プロモーションの機動性を上げる。その背景にあるのは、音楽サブスクリプションサービスの浸透で起こった音楽ビジネスの大きな変化だ。
新設したマーケティングクリエイティブ本部は、メディアプロモーション部とデジタルマーケティング部を束ねる。制作部門にあったメディアプロモーション部をデジタルマーケティング部と同じ組織に置くことで情報共有を進め、サブスクでのストリーミング再生に直結する施策を実施しやすくする。
「もう何年も前から宣伝とデジタルの営業は常に一体で動いたほうがいいと思っていたが、意外と難しかった」と語るのは、新設のマーケティングクリエイティブ本部執行役員本部長の今井一成氏。「Apple Music」や「Spotify」といったサブスクが広がったことで、プロモーションでのデータ活用が進む。音楽番組で紹介されたあとにサブスクで音楽が聴かれたかなどは瞬時に分かるようになった。データの動きを見ながらプロモーション施策が打てる。音楽番組に出演することが分かっているときに「Twitterなどでのプロモーションを仕込み、ツイートからサブスクの試聴リンクへの導線を用意するという流れを徹底したい。でも、この単純なことが意外にできなかった」(今井氏)。デジタルマーケティング部(デジタル営業)の担当とメディアプロモーション部(宣伝)が一体化すれば、こうしたデジタルプロモーションがより機動的に細かく実現できる。
音楽プロモーションでのデータ活用は、サブスクの拡大とともに急激に進んでいる。データの動きからヒットの芽を見つけた成功事例の一つが、松原みき「真夜中のドア/stay with me」のヒットだ。1979年の曲ながら、2019年3月にサブスクでリリースしてからの再生回数は8000万回を超えるという大ヒットになった。
シティーポップブームといわれ、50~60代が懐かしんで聴いているのかといえば「そうではないことがデータから分かる」と今井氏。ポニーキャニオンでは自社で構築したマーケティングツールを導入して、Apple MusicやSpotifyなど複数のサブスクサービスの再生データを同時に見られる。ポイントはデモグラフィック(人口統計学的属性)がはっきり分かること。年齢、性別、国内外の再生地域……曲ごとに再生データが示される。「真夜中のドア/stay with me」のヒットもデータで初動をつかんだ。18才から22才までの若者の再生数が42%を占めていた。
「最近、海外で動きが激しいんですよ」と言われて気がついた
「最近、海外で動きが激しいんですよ」とベテランスタッフに言われて、Spotifyのデータを見てみると、確かに「すごく上がっている」(今井氏)。そして偶然にもそれからほどない日の朝、クルマの中で聴いたJ-WAVEの番組で、「真夜中のドア/stay with me」をカバーしているインドネシアの女性ユーチューバー・Rainych(レイニッチ)が話題になっていることを知った。40年前の曲が海外で聴かれている。だったらこれをニュースにできないか――。
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