アジア圏はJ-POPやアニメソングの認知度が高く、若年層が多い有望な市場だ。ソニー・ミュージックグループで海外興行を手掛けてきた関根直樹氏が執筆した書籍『日本のアーティストを売り込め! 実践者が明かす海外攻略の全ノウハウ』(2021年6月14日発行、日経BP)の中から、アジアの音楽市場の可能性について抜粋してお届けする。

新刊『日本のアーティストを売り込め! 実践者が明かす海外攻略の全ノウハウ』(関根直樹著、日経BP) 2021年6月14日発行
新刊『日本のアーティストを売り込め! 実践者が明かす海外攻略の全ノウハウ』(関根直樹著、日経BP) 2021年6月14日発行
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 K-POPが世界の音楽市場を席巻している昨今だが、国内アーティストの活躍もめざましい。X JAPANやL'Arc-en-Cielなど日本を代表するロックバンドが欧米ツアーを行い、L'Arc-en-Cielは当時日本人アーティスト初のマジソン・スクエア・ガーデン公演で1万2000人を動員した。きゃりーぱみゅぱみゅ、MIYAVIなどもワールドツアーを数回実施している。

 そしてメタルバンドBABYMETALは2016年、英国のウェンブリー・アリーナ(現The SSE Arena)で日本人初の公演を行った。この会場は収容人数1万4000人で、ザ・ビートルズやクイーンなど世界の名だたるアーティストが公演を行ってきた名門の会場。そこで日本人アーティストがワンマン公演を実施するなどこれまで夢想だにしなかった衝撃的なニュースだ。19年には米国ツアーを成功させ、世界を代表するロックバンド、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのワールドツアーでオープニングアクトを務めるなど、これまでの日本の常識を覆した。

 ONE OK ROCKも全米ツアーに加え欧州ツアーも敢行するなど、日本の音楽が興行という形で確実に欧米で受容されているのだ。日本人アーティストの欧米での成功例が積み重なってきていると実感する。

 一方で、そもそも何をもって成功と認定するのかによって成否の判断は変わってくる。楽曲の配信やダウンロード実績なのか、音楽チャートか、観客動員数か、はたまた興行売上金額なのか。これだけ音楽のジャンルや楽曲の販売形態が多様化する昨今、坂本九のようにビルボードチャート1位を獲得するのは至難の業と言わざるを得ない。

アジア圏は日本の楽曲が受け入れられやすい市場(写真/Shutterstock)
アジア圏は日本の楽曲が受け入れられやすい市場(写真/Shutterstock)
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 欧米マーケットでの成功は夢のある話だが、ことビジネス面での成功を考えれば、その舞台としてアジア市場を目指すのが賢明だ。

 欧米で日本の音楽はニッチ市場にとどまっている。媒体ではフランスのJAPAN FM、レーベルでは英国のJPU Records、興行ではドイツのGan-Shin Recordsを除き、日本人アーティストだけを取り上げる番組やコンサートプロモーターは見当たらない。それだけJ-POPは欧米では概してニッチ市場であるということなのだろう。

 アジアはどうか。台湾ではKKBOXチャート、中国ではテンセントミュージック傘下のQQミュージックチャートなど、J-POPやACG(アニメ、コミック、ゲーム関連音楽)に特化したチャートがある。台湾、タイ、香港、シンガポール、上海にはほぼ日本人アーティストだけを扱うコンサートプロモーターも存在する。それだけアジアにおける日本音楽の占有率が欧米に比べて高く、また市場規模も大きいといえる。メンタリティーの面からも日本はアジアの1国で、日本人を受け入れる素地は欧米の国よりもアジア各国の方が強いのかもしれない。

 歴史的背景からすれば韓国や中国のシニア世代は日本に対して少なからず嫌悪感を抱いているのかもしれないが、若年層に至ってはアニメ、食、ファッション、音楽から日本のコンテンツを積極的に受容している事実もうかがえる。総じて、私は「ドリームの欧米、ビジネスのアジア」として関係者に対しては持論を伝えている。

 アジア圏には日本より人口の多い国が5つ(中国:14.4億人、インド:13.8億人、インドネシア:2.7億人、パキスタン:2.2億人、バングラデシュ:1.6億人)あり、人口ボーナスで考えると平均年齢が20代の国は5つもある(フィリピン、カンボジア、ラオス、インドネシア、ミャンマー)。アジアは若年層向けのポップカルチャーを受け入れる土壌がまだまだ見込める有望な市場なのである。

シティーポップに新たな市場開拓の余地

 最近、80年代音楽がにわかに脚光を浴びている。海外で、だ。80s J-POPが海外でヒットしているというニュースに日本人が触れ、楽曲が逆輸入、再燃している現象が起きているのだ。

 その筆頭として竹内まりやの『プラスティック・ラブ』が挙げられるが、加えて松原みきの『真夜中のドア/stay with me』が20年末から各国でチャートが急上昇したという。Spotifyのバイラルチャート「グローバルバイラルトップ50」では20年12月に18日連続で世界1位を記録、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデン、オーストラリア、インド、シンガポール、フィリピン各国のバイラルチャートでも1位になった。

 どちらの楽曲も、そのテンポ感やグルーブにグローバルヒット性があるのだと思うのだが、80年代の良質なJ-POPをセレクトして国内外に発信、コンピレーションアルバムをリリースする韓国人DJ、NightTempoの存在は大きい。彼は世代的には80年代J-POPより一回り以上若いと思うが、昭和歌謡に夢中になっていった経緯があり、自らを昭和グルーブのオーガナイザーと称している。彼のような触媒があって、世代を問わず時代を超えて楽曲がSNS上で国境を越えていったのだ。

 『プラスティック・ラブ』は私が知る限り、台湾の女性シンガー9M88、インドネシアのシンガーRainych、そして日本ではDEEN、CHAI、Friday Night Plansなど数々のアーティストがカバーしている。こうした背景を元に考えると、レコード会社が言うカタログ楽曲は宝の埋蔵庫であると思うのだ。松原みきは既に他界してしまっているが、楽曲は今でもプレイリスト上で生きているし、初めて触れたリスナーにとっては新曲である。

 90年代半ばに放映されたフジテレビのドラマに「未成年」がある。このエンディングテーマ曲がカーペンターズの『青春の輝き』であった。当時ドラマを見た視聴者から、カーペンターズの来日公演はあるのかという問い合わせが殺到したという。ボーカルのカレン・カーペンターは80年代前半に亡くなっていたが、楽曲の輝きは失われていないことを物語るエピソードである。

 ヒットしたカタログ楽曲を持ち、今でもアクティブなアーティストは少なからず日本に存在する。八神純子、EPO、杏里、角松敏生など、シティーポップにカテゴライズされるアーティストはすべからくSNS上で楽曲を再燃させる前提が整っている。日本人アーティストの海外進出でSNSは欠かせないが、80年代のヒット曲に再度スポットライトを当て、楽曲配信とアーティスト稼働を連動させたプロジェクトを組んで、うまく海外興行につなげていきたいと感じている。


『日本のアーティストを売り込め!実践者が明かす海外攻略の全ノウハウ』
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『日本のアーティストを売り込め! 実践者が明かす海外攻略の全ノウハウ』
K-POPが世界の音楽シーンを席巻している昨今ですが、J-POPにも特にアジア市場で進出成功の可能性が広がっています。実際、海外市場に打って出たいと考えているミュージシャンやスタッフは数多く存在しています。一方でその具体的な方法論は共有されていません。本書は、日本人アーティストのアジア興行支援を、ソニー・ミュージックグループで20年の長きにわたって手掛けてきた著者が、その経験とノウハウを体系化。海外興行手続きのA to Zを網羅したものです。
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