P&G出身のマーケターが、グーグル日本法人代表に――。こんな驚きのニュースが飛び込んできたのは2021年2月のこと。なぜプロマーケターが、GAFAの一角である屈指のIT企業のかじ取りを担うのか。グーグルは何を託すのか。就任から5カ月たった今、渦中の本人・奥山真司氏が明らかにする。

 米グーグルが、海外法人を立ち上げたのは20年前の01年。最初の場所として、白羽の矢を立てたのが東京だった。グーグルのグローバル化において、日本市場を重視したために他ならない。初代の日本法人社長の座に就いたのが村上憲郎氏。その後、元ソニーの辻野晃一郎氏、元ヤフーの有馬誠氏、などそうそうたる系譜だ。

 だがこれまではやはり、IT業界のキーパーソンがグーグルのトップに就く、という印象が強かった。だが日本法人20周年の節目にグーグルが選んだのは、プロマーケターの奥山真司氏だった。奥山氏とは、果たしてどのような人物なのか。

21年2月より、グーグル日本法人代表を務める奥山真司氏
21年2月より、グーグル日本法人代表を務める奥山真司氏

 奥山氏は福岡県出身の55歳。1989年にP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)に入社後、13年にわたりマーケティング畑を歩んできた。

 P&Gといえば、“P&Gマフィア”という通称で日経クロストレンドでも何度も紹介している通り、出身者がさまざまな業界で多大なマーケティングの成果を生み出していることで知られる。日本コカ・コーラCMO(最高マーケティング責任者)の和佐高志氏、クー・マーケティング・カンパニー代表の音部大輔氏、キリンビール常務執行役員の山形光晴氏など、多士済々な顔ぶれが並ぶ。奥山氏も、衣料用洗剤「アリエール」や台所用洗剤「ジョイ」などのブランドを担当してきた。

 2008年、42歳の若さでP&Gの韓国法人社長に抜擢(ばってき)。日本人が日本拠点以外でトップに就くのは初めてのことだった。奥山氏は、ここで大きく2つのことを学んだという。「ダイバーシティー」と「聞くことの重要性」だ。「P&Gはもともと多国籍な組織だが、韓国は英語も通じにくい。外資系などは特に、自分の主張をはっきりと伝えるトップが多いと思うが、私が重視したのはまず『相手の話を聞く』、そして『違いを認める』こと。まずはそれに努めた」(奥山氏)

 その4年後の12年には、経営手腕を評価され、P&Gジャパン社長に就任。後にP&Gマフィアと呼ばれる多彩な人材を束ねてきた経歴を持つ。ジャパンの社長の際に重視したのは、日本の人材をグローバルに送り出すことだったという。日本市場の役割や生活者視点を強く打ち出すことで、グローバルでの評価を上げ、本国である米国をはじめ海外に輩出する、という役割を担ってきた。

 20年以上のP&Gでのキャリアの後、「マーケティングをもう1回やりたい」という思いで選んだのは江崎グリコだった。16年に常務執行役員マーケティング本部長に就任。「アーモンドミルク」「GABA」「BifiXヨーグルト」などをはじめとした、健康を打ち出したマーケティングに尽力した。

「自分がグーグルに入ることでの化学反応」

 P&Gと江崎グリコ。どちらも消費財を扱うメーカーなので、この2社を渡り歩く納得感はある。ではなぜ、一見関連性がなさそうに思えるグーグルを3社目に選んだのだろうか。奥山氏は、実は「3社とも非常に共通している点がある」と説明する。

 それは「日々の生活に役立ち、社会課題を解決しようとしている企業」という点だ。これまでの2社はメーカー、グーグルはITと形は異なるが、消費者とじかに接しているという点では同じ。しかもB2Cメーカーの2社に比べて、グーグルが提供するサービスに我々が触れている時間ははるかに長い。Google検索、Googleマップ、Gmail、YouTube……グーグルはある意味、究極のB2Cサービス企業といえるのかもしれない。「私がやりたいことを最も幅広く、深くできるのではないか、と考えた」と奥山氏は語る。

 では逆に、なぜグーグルは奥山氏を選んだのだろうか。「私も『何で僕なんですか?』と聞きました」と奥山氏は笑うが、自分を選んだこと、それこそがグーグルのダイバーシティーなのではないか、と分析する。「視点の異なる人同士がぶつかり合うことでイノベーションが生まれる。私という人間が入ることでの化学反応。グーグルはそれをカルチャーとして信じているのではないか」(奥山氏)

 コロナ禍での日本法人代表就任から5カ月が経過したが、P&G韓国法人のときと同様に、この間は「とにかく全員の話を聞くようにしてきた」と語る奥山氏。世界屈指のIT企業をどのように変えていこうとしているのか。経営とマーケター、二足のわらじの経験を持つ奥山氏の手腕に注目が集まっている。

代表就任後、初の講演! グーグル日本法人代表の奥山真司氏が登壇します
グーグル日本法人代表・奥山真司氏が、7月13、14日に行われる「日経クロストレンド FORUM 2021」に登壇します。オンラインでの講演なので、どなたでもご視聴が可能です(無料登録制・先着順)。お申し込みはこちらから!
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