日本上陸25周年を迎えたスターバックス コーヒー ジャパン。コロナ禍でも、変わらないものと変えるべきものを見極め、さまざまなマーケティング施策を企画した。森井久恵CMO(最高マーケティング責任者)が考えるマーケターやブランドの在り方とは?
スターバックス コーヒー ジャパンCMO
変えるべきものとブラさないものを見極める
日本だけでなく、海外でもマーケティングの責任者として活躍してきた森井氏。スターバックスのマーケティングで最も大切にしていることは、「変えるべきものと変えずにブラさないものを見極め、育てていくこと」だという。コロナ禍においては、2020年4月からの緊急事態宣言中に約8割の店舗を休業するという大きな決断をし、20年5月に営業を再開した。ここで言う「変えるべきもの」とは、サービスや体験の届け方。コロナ禍によって変化した生活様式に合わせて、顧客により良い体験をしてもらうために変える必要があると考えた。
その最たる例がデジタル化だ。もともとスターバックスカードという独自のプリペイドカードを導入していたこともあり、キャッシュレス比率は3割程度と全国平均よりも高かった。20年11月末からはスマホで注文し、店舗で商品を受け取るというモバイルオーダー&ペイを全国的に展開。交通系電子マネーやQRコード決済の拡充のほか、デリバリーサービスの導入、オンラインストアでの商品拡充などを行い、さらなるデジタル化を推進してきた。その結果、現在のキャッシュレス比率は5割を超えるほどになった。
森井氏はこのコロナ禍で「スターバックスが大事にしている“サードプレイス”の意味合いが変わってきた」と続ける。ファーストプレイスが家、セカンドプレイスを職場や学校としたときに、サードプレイスはその中間として第3の居心地の良い体験ができる場所・空間のことを指す。そのサードプレイスが、「昔は単純に『場所』という意味だったが、今は『体験場所・空間』という意味合いが強くなっている。店舗だけでなくデジタル上にも接点ができ、かつシームレスになってきているため、そこに溶け込んでいく必要がある」と森井氏は話す。
一方「変えずにブラさないもの」としているのが、人や地域とのつながりやそれによって生まれたコミュニティーだ。スターバックスは「人々の心を豊かで活力あるものにするために――」を企業ミッションとして掲げており、「ピープルビジネス」と表現するほど人とのつながりを大切にしている。
スターバックスの特徴といえば、パートナー(従業員)と顧客との間に生まれる何気ない会話や、商品を受け取ったときに添えられるメッセージなど「人の温かみ」だが、そこからも人とのつながりを大切にしている姿勢が見て取れる。商品がおいしく、居心地の良いカフェであることはもちろんだが、パートナーとの心地良いやり取りがあるからこそスターバックスを利用しているというファンも少なくないだろう。「パートナーが語りかける温かさの魅力を多くのお客様が感じており、これはスターバックスのユニークなところ。居心地が良い空間で心温まる時間を過ごせた経験が最も大事。企画部門が作る商品やサービスはあくまでも彩りで、そこを演出するという役割もある」と森井氏。
「お客様の生活様式の変化に合わせてデジタルの接点を増やすなど、つながり方を変えていくというアプローチは必要だが、今お客様がサービスを通じて感じている『人の温かみ』はブラさないようにしたい」と森井氏は強調する。
考えを明文化し、確認し合う
さらに、森井氏がマーケティングのトップとして重要視しているのは「考えを明文化して確認し合うよう意識する」ことだという。スターバックスには、企画に携わるパートナーが100人以上在籍しており、社員それぞれが考えていることも異なる。必死にプロジェクトを進めていると、何が大事でどんな目的があって取り組んでいるのか分からなくなったり、複数のチームでさまざまなプロジェクトが同時に進んでいると、チームが取り組んでいる重要なプロジェクトが他のチームから重要だと認識されていないケースもあったりするのだという。「組織全体で大事なことは何か、その中でそれぞれの役割が何かを明確にする。そしてきちんと明文化して確認し合うことで、スターバックスが目指すべき方向へブレることなく進むことができる。明文化することは、規模が大きい企業だからこそ大事になってくる」と森井氏は力説する。
森井氏は明文化し、確認し合うことをコロナ禍でより意識するようになったという。メールやチャットなどオンライン上でのやり取りが主軸になり、意思の疎通や伝達がしにくくなった今、現場同士きちんと目線が合っているかを確認するため、こまめにやり取りしているそうだ。
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