コロナ禍にもかかわらず業績好調な日清食品。同社が水面下で進めてきたプロジェクトが、中長期成長戦略として明らかになった。「好きなものを好きなときに好きなだけ食べても大丈夫な世界をつくりたい」――。安藤徳隆社長が“未来の食”の展望を語った。

日清食品の安藤 徳隆社長。1977年生まれ。2007年に日清食品に入社し、マーケティング本部や経営戦略本部を経て、15年4月から社長
日清食品の安藤 徳隆社長。1977年生まれ。2007年に日清食品に入社し、マーケティング本部や経営戦略本部を経て、15年4月から社長

言われなければ分からない、見た目も味も普通の完全栄養食

 同社が未来の食として取り組んでいるのは、見た目やおいしさはそのままに、カロリーがコントロールされ、必要な栄養素をすべて満たす食事だ。安藤社長はそのニーズの背景として、「オーバーカロリー」と「間違ったダイエット」を挙げる。「自分自身がそうだが、特に男性は40歳をすぎてメタボなど健康に気を使い始めると、色々なことが気になって食事が楽しめなくなる。一方、女性を中心に、食べる量を極端に減らすなどの間違ったダイエットも問題になっている。女性は必須栄養素の3、4割が取れていないというデータもある」(安藤社長)

 しかし、これまでの栄養食には入れやすい栄養素しか入っていなかったという。「必要な栄養素を全部入れてしまうと、えぐみや苦みが強すぎて食べられないから。さらに調理過程で栄養素が流出してしまう難しさもあった。そこで我々がインスタントラーメンで培った技術を生かし、未来の食の実用化に成功した」(同)

 それを実現するために、減塩ではえぐみが出やすいカリウム塩を使わず、世界中から塩を集めてたどり着いた素材(塩化マグネシウム)を使うソルトオフ製法、麺の中心に栄養素を閉じ込めてえぐみや苦みをマスキングする栄養ホールドプレス製法、麺を油で揚げずに必要最小限の植物油を表面に噴霧して熱風乾燥するミスト・エアードライ製法、麺の中心層の一部に小麦粉の代わりに食物繊維を練り込んで低カロリー化するオリジナル3層麺製法といった技術を活用。これらの技術を使ってコメや肉といった食材を再合成し、独自の方法で調理したという。「ミスト・エアードライ製法はトンカツを作るのに役立つなど、今回の取り組みでインスタントラーメンの技術が色々な食品に応用できることが分かった」(同)

 さらに、1週間21食のうち10食をこの食事に置き換えるプログラムを考案し、臨床試験を実施。そこで出された食事の写真を見て驚くのは、見た目では普通の食事と変わらないこと。トンカツやローストビーフ、鮭の味噌マヨネーズ焼き、チンジャオロースなど和洋中様々な料理が並ぶ。これで摂取カロリーは400~500キロカロリー程度、必要な栄養素をすべて含むという。

写真は社食での臨床試験で提供した定食の例。トンカツやローストビーフ、鮭の味噌マヨネーズ焼き、チンジャオロースなど和洋中様々な料理が並ぶ。これで摂取カロリーは400~500キロカロリー程度、必要な栄養素をすべて含むという
写真は社食での臨床試験で提供した定食の例。トンカツやローストビーフ、鮭の味噌マヨネーズ焼き、チンジャオロースなど和洋中様々な料理が並ぶ。これで摂取カロリーは400~500キロカロリー程度、必要な栄養素をすべて含むという

 同社は日清食品HD社員83人に対し、社員食堂で17~20日間(月~金曜)、朝食と昼食を提供(間食や夕食、週末の食事は自由)。結果、体脂肪率や血圧、中性脂肪といった生活習慣病関連の指標に改善が見られたという。その内容は20年10月末に第27回日本未病学会学術総会で発表された。「今後も精力的に研究を続けていくが、おいしさはそのままで、カロリーや栄養素を自在にコントロールできる“未来の食”の完成形が見えてきた。これから食に関わるビジネスをやっていくうえで外せない流れだ」(同)

一般的なトンカツ定食と試験食のトンカツ定食の栄養素を比較。試験食はすべての栄養素基準を満たしているが、一般食は16項目で過不足が生じているという。日本人の食事摂取基準および、スマートミール基準を参考に、必要な栄養素と量を算出
一般的なトンカツ定食と試験食のトンカツ定食の栄養素を比較。試験食はすべての栄養素基準を満たしているが、一般食は16項目で過不足が生じているという。日本人の食事摂取基準および、スマートミール基準を参考に、必要な栄養素と量を算出
同社が実施した臨床試験で健康データが改善した被験者割合。体重は男性被験者62人中46人が減少。体脂肪率は20%以上の男性被験者32人中20人が減少。BMIは25kg/m2以上の男性被験者18人中13人が減少。血圧は収縮期血圧(SBP)130mmHg以上かつ/または拡張期血圧(DBP)80mmHg以上の被験者13人中10人がDBP低下。骨密度は2.63未満の男性被験者10人中7人が増加。中性脂肪は被験者75人中45人が減少。日本人の食事摂取基準および、スマートミール基準を参考に、必要な栄養素と量を算出
同社が実施した臨床試験で健康データが改善した被験者割合。体重は男性被験者62人中46人が減少。体脂肪率は20%以上の男性被験者32人中20人が減少。BMIは25kg/m2以上の男性被験者18人中13人が減少。血圧は収縮期血圧(SBP)130mmHg以上かつ/または拡張期血圧(DBP)80mmHg以上の被験者13人中10人がDBP低下。骨密度は2.63未満の男性被験者10人中7人が増加。中性脂肪は被験者75人中45人が減少。日本人の食事摂取基準および、スマートミール基準を参考に、必要な栄養素と量を算出
日清食品の安藤徳隆社長が登壇します!
日清食品・安藤徳隆社長が、7月13、14日に行われる「日経クロストレンド FORUM 2021」に登壇し、“未来の食”について語ります!オンラインでの講演なので、どなたでもご視聴が可能です(無料登録制・先着順)。

オーダーメード化も視野に

 実はターゲットである中年男性と若い女性が定期的に食事を取る社員食堂が最も効果的と考え、同社は20年の春から夏にかけて全国の社食でこのビジネスを始めようとしていたが、コロナ禍で都市部の社食が軒並みストップした。

 「社食だけでなく、カップ麺や冷凍食品、デリバリーフード、お弁当など、BtoCからBtoBまで、常温、冷蔵、冷凍問わずさまざまな可能性がある。栄養バランスを維持するという特性上、1つの商品カテゴリーでやっても意味がなく、業務用や素材ビジネスの可能性もある。カテゴリーやチャネルを限定せず、できるところからやっていく。コロナ禍の影響で栄養に対する意識も高まっているので、どうせ食べるなら栄養バランスの良い食事を取るという食習慣をつくっていきたい」(同)

 さらにもう1つ重要なポイントが、ユーザーに考えさせないこと。「今まで通りの食生活をしている中で、いつの間にか食べているというのが理想。行動変容を促さず、行く先々で未来の食があらゆる形で提供されていく。そういう意味では、街や都市にまるごと導入すれば、あらゆるタッチポイントをカバーできる」(同)

 その先には、個々人に合わせた食のオーダーメード化がある。「栄養素もカロリーもコントロールできる技術が確立してきたので、例えば見た目も味も同じとんこつラーメンなのに、各人の体質や状況に合わせたものを近い将来、提供できるようになる。極端な話、飽きさえしなければ365日食べ続けても大丈夫なものにしたい」(同)

 世界展開も見据えている。「欧米では肥満やオーバーカロリーが日本よりも深刻な社会問題になっている。大きなビジネスチャンスがあるし、社会問題の解決にもなり得るので、海外のビジネスパートナーの関心も強い。人口比率から考えたら、海外の方が需要は大きい」(同)

 果たして、日清食品のビジネスで今回の試みがどれくらいの比重を占めていくのか。 「すべての食がこうした流れになっていくなら、我々が扱っている商品や事業もそちらに代わっていくだろう。カップヌードルやどん兵衛が完全栄養食ベースになる可能性も十分にある」(同)

(人物写真/的野弘路)


日清食品・安藤徳隆社長が登壇!
「日経クロストレンドFORUM 2021」

日清食品・安藤徳隆社長が、7月13、14日に行われる「日経クロストレンド FORUM 2021」に登壇し、“未来の食”について語ります!オンラインでの講演なので、どなたでもご視聴が可能です(無料登録制・先着順)。
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