
結婚式や祝賀会、開店セレモニーなど、お祝い事のめでたい雰囲気を一段と盛り上げてくれるのが鏡開きだ。大きなたる酒の蓋を豪快に叩き割り、なみなみとついだ酒を惜しみなく振る舞う。まさに祝福の日にふさわしい演出だ。ところが、新型コロナウイルス感染症の流行により、多くの人が集まるイベントは開催しにくくなり、お祝い事もなかなかできない。そんな中、自宅でも気軽に鏡開きを楽しめるコンパクトな紙製の鏡開きセットの売れ行きが好調だ。
1つのたるからたくさんの人に配る振る舞い酒は、集団感染のリスクが高くなる。そのため、コロナ禍以降、たる酒を使った鏡開きはめっきり少なくなっていた。この状況に危機感を抱いたのが、花の舞酒造(静岡県浜松市)だ。
「当社は、たる酒を日本で一番多く販売する清酒メーカーで、毎年800~900たるを出荷していた」と営業部長兼浜松支店長の石川貴大氏は言う。ところが、2020年には出荷数が前年比わずか3%ほどまでに落ち込んでしまう。
たる酒に代わるものを模索し、アイデアを出し合う中で生まれたのが、21年3月12日に発売した「どこでも鏡開きHACO樽」だ。家族や少人数でのお祝いに、自宅でも気軽に鏡開きを楽しめるコンパクトな紙製の鏡開きセットだ。たる形パッケージの中に、ミニカップ酒5本と紙製の蓋、木槌(きづち)、メッセージを書き込める木札が入っている。蓋をセットして木槌でたたけば、簡単に鏡開き気分を味わうことができる商品だ。
今までになかった需要を顕在化
具体的な商品化へ向けて動き出したのは20年11月ごろ。紙製品を扱う会社にパッケージの製作を依頼し、何度も試作と改良を繰り返した。「蓋をたたいたときにきれいに気持ちよく割れるように、蓋の裏側の切れ込みの間隔や形状を変えて何度も試した」と、企画デザイン室の東多恵子氏は言う。
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