消費者の行動をひもとく最も基礎的なデータが店舗での購買データだ。だが、「実は使いこなせていない企業は多い」と、購買データの解析サービスを展開するTrue Data(東京・港)のデータアナリスト、烏谷正彦氏は指摘する。本連載は、ID-POS(ID付きPOS)などの購買データを使った分析のいろはを、烏谷氏が解説。第1回は、商品やサービスが、なぜ(WHY)売れているのか売れていないのかに着目し、データを読み解くノウハウを伝授する。
近年、コロナ禍の影響もあり、商品やサービスの分野でもデジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が、さまざまな場面で使われるようになっている。しかし、商品やサービス分野でのDXというと、アプリで販促を行うことや、オンラインとオフラインを連携させ、どちらでも購買できるようにするなど、手段(HOW)の部分ばかりに目が行きがちだ。こうした手段は既にどの企業でも容易に実現できるようになり、差は生まれにくくなっている。
一方、一部大手では取り組みが進んでいるものの、手つかずの企業も少なくないのが、デジタル化の流れで取得したデータの活用だ。商品やサービスの購買データは単に蓄積しているだけでは宝の持ち腐れ。それらのデータを活用しようと、「データサイエンティストの採用が急務」「データ教育を広めていく必要がある」など、企業サイドでも重要性の認識が高まっている。
だが、「データを見る力」「データを分析する力」は、何も特別な部門のスタッフが身に付けるべきスキルではなく、ビジネスに携わる全ての人が鍛えていくことが重要だ。データを分析する力が備われば、ヒットの根拠や、逆に売れ行き不振の要因が読み解けるようになり、次にどのような施策をすべきか“打ち手”が見えてくる。しかも、そのスキルは誰もが鍛えれば身に付くものである。
購買データの分析は「5W1H」で考える
では、どのようにこのスキルを身に付けていけばよいのか。キーワードとなるのが「5W1H」によるデータ分析だ。
このうち「HOW」に関しては手段であり、分析で活用するのは「5W」、すなわち、「WHY(なぜ)」「WHO(誰が)」「WHAT(何を)」「WHERE(どこで)」「WHEN(いつ)」の5つとなる。これらの5Wを意識することで、最適な打ち手としての「HOW(どうやって)」を用いて売り上げなどの改善につなげるというのが、データの正しい活用法だ。
連載では一つひとつの「W」に着目して分析方法を解説していく。基本的に、各商品の売り上げデータを取得することができる「小売業」の事例を例として解説するが、伝授するノウハウは、小売業限定ではなく幅広い業界で利用可能だ。
「売上分解ツリー」の構築で、売れている要因を可視化
今回は、商品の売り上げが上がっている理由、あるいは落ちている要因、すなわち買われ方の「WHY」を探るための方法を解説しよう。
ビジネスパーソンにとって、売り上げは当然のことながら上がればうれしいし、下がれば気落ちする。下がった場合は上司にその理由・要因を説明しなければならず、今までは「先月は雨天が続き、客足が伸びなかったことが原因」と、ありきたりな説明で理解を得ようとしてきたかもしれない。
だが、売り上げ下落の説明で重要な点は、現象面だけでなく、これ以上下げないための対策や、上げるための施策をセットで考え、了解を得て実践することだ。また、売り上げが上がった場合でも、「何が影響したのか」「影響は今月以降も享受できるのか」を分析し、影響が一時的であれば何らかのテコ入れ策を考える必要がある。売り上げが下がっても上がっても、その要因(WHY)を知ることができなければ、適切な施策を打つことはできない。
データからそうした要因を分析するために最適なツールとなるのが「売上分解ツリー」だ。名前の通り、売り上げを構成する要素をツリー状に分解していくことによって、何が影響したのか、要因は何だったのかを可視化する手法である。実際に、緊急事態宣⾔下でコロナ禍の影響をまともに受けた、2021年1月のスーパーマーケット1店舗当たりの売り上げ(True Dataの全国のスーパーマーケットを対象にした統計データより算出)をこのツールによって分解し、感染が拡大する以前の前年同期と比較して示したのが次の図だ。
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