
人の性別や年齢、国籍、価値観、ライフスタイルなどを互いに認め合う多様性が叫ばれる時代は、今までとは異なる表現方法が必要になる。ブランドや商品のネーミングにおいても同様だ。米国や日本で何が起こっているかを取材した。
パッケージデザインを見直す
2021年6月30日、米国務省がパスポートの性別表記について画期的な発表をした。性別を自分の希望で選べるようにしたこと、男女どちらにも当てはまらないもう1つのジェンダー選択肢をいずれ追加する予定であることだ。これまで性別は出生証明など正式な書類と合致している必要があった。性転換した人は医療証明書などを求められたが、それが不要になる。男女で区別されたくない人は、その意思を表現できる。多様なジェンダーに、国が正式に対応した。
人種では、黒人からアメリカインディアン、エスキモーなどへ視線が広がっている。黒人はアフリカ系アメリカ人と呼ばれるようになり、アメリカインディアンやエスキモーは、先住民族やチェロキー、イヌイットなど特定の部族名で呼ぶのが正しいとされている。
企業も人種に対する考え方を改め、多くのパッケージデザインを見直すようになった。例えば、黒人女性の顔を配した米クエーカー・オーツのパンケーキ製品「アント・ジェマイマ」は、現在では女性の顔を取り、名称も変えてパンケーキだけの写真をパッケージに用いている。黒人女性の絵には奴隷や召使を連想させるものがあったからだ。乳製品ブランドの米ランドオーレイクスは、インディアン女性を前面に使ったパッケージを見直した。米プロクター・アンド・ギャンブルの洗剤ブランドは、長年使ってきたメキシコ人がロバの上で昼寝をするキャラクターを廃止した。
野球チームも例外ではない。赤ら顔のインディアンをロゴにしてきた「クリーブランド・インディアンズ」は、シンプルな「C」に変えた。球団名も「ガーディアンズ」に変更することを明らかにした。
「ナチュラル」とは何色か
商品自体も変化している。顕著なのは化粧品だ。多様なジェンダーに開かれたメーキャップブランドが登場し、肌の色の多様性を反映させるために、40色以上のファンデーションを販売する例もある。議論は色の数からさらに進み、どれだけBIPOC(アフリカ系、先住民族、有色人種)向けの色が多いかも問われる。色の名称でも「ナチュラル」「ヌード」は何色の肌を基準とするのか、濃い色にエスプレッソなど食べ物の名称が使われるのはなぜか。そんなことが注目されている。「美白」を意味するホワイトニングやライトニングはアジア系に向けた商品だったが、急速に名称を変えたり、商品が販売停止になったりしている。
このコンテンツ・機能は有料会員限定です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー