ハウス「夜遅カレー」好発進 ネーミングで食べる時間を訴求(画像)

ハウス食品のカップ入りレトルトカレー「やさしく夜遅(よるおそ)カレー」。開発に約3年かかったというが、2021年2月8日に発売すると、その一風変わったネーミングと製品特性で注目を集めた。「夜遅くに食べるカレー」と、あえてシーンを限定させた理由とは?

1食当たり約120グラム(生換算)の野菜を使用したハウス食品の「やさしく夜遅(よるおそ)カレー」(実勢価格270円前後、税込み)。内容量は1食170グラムあり、食べ応えも十分だが、カロリーは90キロカロリーと控えめ。夜遅い時間に食べても罪悪感を抱かせないのがポイントだ
1食当たり約120グラム(生換算)の野菜を使用したハウス食品の「やさしく夜遅(よるおそ)カレー」(実勢価格270円前後、税込み)。内容量は1食170グラムあり、食べ応えも十分だが、カロリーは90キロカロリーと控えめ。夜遅い時間に食べても罪悪感を抱かせないのがポイントだ

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 商品名に時間帯を入れたネーミングは、同社の製品としては珍しい。食品事業二部チームマネージャーの長瀬仁美氏は、「夜遅とは午後9時以降を念頭に置いた言葉。時間帯を限定すると購入していただく人の間口は狭くなるが、私たちがターゲットと考える方々にキャッチーなワードとして響けば、ズバリはまっていただけるのではないかと思ってネーミングした」と語る。

 やさしく夜遅カレーには、さまざまな機能や特長が盛り込まれている。成人1日当たりの野菜摂取目標の約3分の1が取れること。一般的なレトルトカレーが1食180~250キロカロリーなのに対して、約90キロカロリーに抑えていること。具だくさんで、ご飯にかけずに単体で食べても食べ応えがあること。レンジで温めるだけで食べられることなどだ。

【特集】ヒットするネーミング

 ネーミングについては、カレーの試作を繰り返していた当初から、同時並行でアイデア出しをしていった。当初は、たっぷりの野菜が取れることや、満足感のある食べ応え、低カロリーであるといった機能面を訴求した商品名を考えたこともあった。

 「しかし、それでは製品の性格がぼやけてしまう。このカレーは、夜遅く仕事から帰ってきた20~30代の単身女性が、罪悪感を持たずに食べられるレトルトカレーをと考えて開発したもの。商品名としては食事のシーンを明確にするワードでいく以外、考えられなかった」(長瀬氏)

「食器洗いが面倒」の声に応えたカップ容器だったが

現在のラインアップは2種。「まろやか完熟トマト&5種の野菜」(上)は完熟トマトのうまみと甘みが溶け込んでいる。「濃厚あめ色玉ねぎ&ブイヨン」(下)はあめ色玉ねぎの甘みとブイヨンのコクが溶け込む
現在のラインアップは2種。「まろやか完熟トマト&5種の野菜」(上)は完熟トマトのうまみと甘みが溶け込んでいる。「濃厚あめ色玉ねぎ&ブイヨン」(下)はあめ色玉ねぎの甘みとブイヨンのコクが溶け込む

 市販のカレーには大きく分けてレトルトタイプとルータイプがある。近年、家庭のカレー購入額は、レトルトカレーがルーカレーを上回っている。しかし、購買層を調べると、単身世帯の主な購買層は50~60代の男性で、20~30代の単身女性はあまりレトルトカレーを食べていないことが分かった。そうした“カレー空白地帯”の女性たちに食べてもらえれば、レトルトカレーの市場はさらに拡大すると考え、18年春に新製品の開発をスタートした。

 開発作業は、外部のモニターや同社の女性社員など、製品のターゲットとなる20~30代の単身女性へのヒアリングから始めた。この層の女性には忙しく働いている人が多く、帰宅時間も比較的遅い。そのため、夜に自分のためだけに食事を作るのは大変で、ついつい外食しがちという声が多数聞かれた。

 そもそもカレーをかけるご飯も、「炊かない」「糖質やカロリーが気になるから食べない」という人が多かった。レトルトカレーについても「(パウチから移し替えた)食器を洗うのが面倒」という声まであった。

 カレーの中身、容器、商品名の方向性は、これらの声に応える形で決めていった。中身はスープ、ポタージュ、リゾットの3タイプを試作。モニターに試食してもらうと、スープタイプはサラッとしすぎて物足りない、リゾットタイプはご飯が入っていて夜遅く食べるには重たく、罪悪感が付きまとうといった声が多かった。ポタージュタイプは普通のカレーに近い粘度があり、食べ応えもあると、一番多くの票を集め、濃厚なポタージュタイプのカレーとすることに決めた。

 通常のレトルトカレーに多いパウチではなくカップ容器を採用したのは、食器を用意せずにそのまま食べられ、食べ終わったら捨てられるからだ。食器を洗う必要がないというのは、ターゲット層に深く刺さるメリットになるはずだ。

 しかし、ここで大きなハードルが立ちはだかった。レトルトカレーを工場で製造する際には、調理した中身を容器に詰めた後、釜に入れて加圧加熱殺菌しなければならない。従来のパウチと違い、加圧加熱殺菌に対応するカップ容器は、採用したことがなかった。実際にカップ容器に蓋をして加圧加熱すると、崩れてしまうこともあった。包材メーカーとともに、加圧加熱しても壊れない素材や形態を探し求めて、圧力や温度なども変更しながら何度もテストを繰り返した。ようやく完成したのが現在の容器だ。18年春に商品開発をスタートさせてから、発売まで約3年かかった。

「やさしく」で安心・ご褒美のニュアンスを加味

蓋を少し剥がして電子レンジで1分ほど加熱するだけで、容器に移すことなくそのまま食べられる。2種類ともとろっとまろやかなポタージュタイプで、単体でも食べられるほか、ご飯を入れたりパンを浸したりして食べてもいい
蓋を少し剥がして電子レンジで1分ほど加熱するだけで、容器に移すことなくそのまま食べられる。2種類ともとろっとまろやかなポタージュタイプで、単体でも食べられるほか、ご飯を入れたりパンを浸したりして食べてもいい

 ネーミングでは機能面を押す以外に、これまでにないカップ容器入りレトルトカレーであることを前面に出す案なども出たが、食事シーンを訴求するネーミングでいく方針は揺るがなかった。問題は、「午後9時以降の食事シーン」を表す言葉のチョイスだった。どんなワードが候補に挙がったかはオープンにできないと断ったうえで、長瀬氏はこう述べる。

 「担当の男性社員が、若い女性がよく使っている言葉をSNSや女性向け雑誌などから探して、その中から『こんな言葉がよく使われているけれど……』と見つけてきたのが『夜遅』。これなら午後9時以降のちょっと遅い時間の食事だと、シーンが分かりやすく見えてくる。さらに『やさしく』を加えることで、夜遅くても安心して食べられることや、夜遅くまで頑張った自分へのご褒美といったニュアンスも伝わるネーミングになった」

 夜遅くの食事シーンをより分かりやすく訴求するため、商品名のロゴ周りは、夜空に三日月と星をちりばめたデザインを施した。

 やさしく夜遅カレーの販売チャネルは関東の一部のコンビニエンスストアと一部ECサイト。限定されたチャネルにもかかわらず、発売初月の売り上げは、目標を50%上回る好スタートを切り、その後も順調に売り上げを伸ばしているという。販売目標は年商2億~3億円。現在、味のバリエーションは「まろやか完熟トマト&5種の野菜」と「濃厚あめ色玉ねぎ&ブイヨン」の2種類だが、売れ行きやユーザーの要望などを参考に、バリエーションを広げることも検討していきたいという。

(写真提供/ハウス食品)

■修正履歴
・ハウス食品の長瀬仁美氏の部署名が間違っていました。
・「午後10時ごろ」は「午後9時以降」の誤りでした。
・「主な購買層は50~60代の男性」は、「単身世帯の主な購買層は50~60代の男性」の誤りでした。
本文は修正済みです。[2021/07/07 09:00]