
伊勢志摩産の養殖真珠を使ったジュエリーを製造販売するサンブンノナナ(三重県伊勢市)。その新商品「金魚真珠」が静かな人気だ。従来は売り方に困っていた、いびつな形の真珠の中から、金魚の尾ひれのような突起が生えたものを金魚真珠と名付け、新たな価値を与えた。SDGs(持続的な開発目標)の目標12「つくる責任 つかう責任」、目標14「海の豊かさを守ろう」の実行でもある。
サンブンノナナは伊勢志摩の真珠を使ったジュエリーブランド「SEVEN THREE.」を手掛けてきた。新たなコレクション「百花─HYAKKA─(ひゃっか)」を加えたのが2019年8月のことだ。百花では、従来は流通に乗らなかった、いびつな形の真珠を素材に選んだジュエリーを加工し、販売する。中でも、金魚の尾ひれのような突起が生えた真珠に「金魚真珠」と名付けた商品が目玉となる。いわゆるバロックパール(ゆがんだ形の真珠)の価値を高めることで、真珠生産者の支援も狙っている。
同社では自社ECサイトを通じた販売体制を取る。20年の売り上げは前年比約3倍に伸長した。「コロナ禍でZoomなどを使って話す機会が多くなったためか、顔まわりにジュエリーを着けたいという人が増えた。当社でもネックレスの売り上げが異常な伸び率だった」。サンブンノナナ代表取締役社長兼ディレクターの尾崎ななみ氏は、驚きを隠さない。特に金魚真珠の人気は高く、売上高のほとんどを占めるという。
耳に着けるピアスなどはマスクで隠れがちだが、ネックレスは印象的なワンポイントとなり、華やかになることが人気の理由ではないかと尾崎氏は推測する。
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金魚が泳いでいるように見えた
真珠の養殖は、実業家の御木本幸吉が、1893年に三重県の鳥羽でアコヤ貝の母貝から人工的に真珠をつくりだすことに成功し、産業化の契機となった。戦後は外貨獲得のための輸出品となり、三重県と愛媛県、長崎県が養殖真珠の主要産地として知られる。現在も3県で国内生産高の9割を占める。しかし、近年はアコヤ貝の大量死や養殖事業者の高齢化と後継者不足などによって、生産量の減少が続いている。
後継者不足は深刻で、「大変な仕事でももうかっていたら、仕事を継いだり、移住したりする人もいると思うが、もうからない仕事をやろうという人はいない」(尾崎氏)。養殖真珠ができるまで約3年かかる。できた真珠の中で、「真円」で無着色のまま流通するのはわずか2割ほど。突起の付いたものは流通に乗らず、廃棄してしまうか、その突起をカットして金具などで隠すしかなかった。
自然が生んだ造形美に対して、「生産者は『この形はすごい』と思っても、買ってくれる人がいない」(尾崎氏)。しかし、「同じように手塩にかけて育てたのに」という思いから、尾崎氏はどうしてもそれらを廃棄したくなかった。そこで、品質の良い真珠は産地の外で売買してもらい、これまで売れなかったものを尾崎氏が買うことで、生産者を応援しようとSEVEN THREE.を立ち上げたのだ。
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