富士通が挑む13万人のDX経営

デザインがプロダクトやグラフィックなどの領域にとどまらず、企業戦略上で大きな存在感を示すようになった。富士通デザインセンター長代理の藤 健太郎氏は、全社員にデザイン思考のスキルを浸透させることが富士通のデザイナーの役割であると考え、デザイナーを評価する指標も見直しているという。

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「事業部門やコーポレート部門の社員にもマインドチェンジが求められている」
「事業部門やコーポレート部門の社員にもマインドチェンジが求められている」
藤 健太郎(ふじ けんたろう)氏
富士通デザインセンター長代理
1997年東北大学経済学部卒業後、富士通入社。経済産業省の渉外担当に従事した後、マーケティング部門にて新規事業・サービスの開発を推進。その後、クラウド事業のサービス開発、販売・プロモーションを推進。開発者とのコミュニティーやマーケットプレースを立ち上げた。グローバルマーケティング部門、経営戦略室を経て、2020年よりデザインセンターにて富士通グループのデザイン経営の推進に従事

デザイン部門はどのように変わったのでしょうか。

富士通デザインセンターは、富士通デザインが母体です。これまでは企業としてプロダクトのデザインやソフトなどのGUI(グラフィック・ユーザーインターフェース)、ユニバーサルデザインといった、文字通りデザインの業務を主に手がけてきました。2020年7月に富士通と統合し、デザインセンターという社内部門になったことで、富士通グループ全体にデザイン思考のマインドや仕事のやり方、スキルを浸透させることが主なミッションになりました。

 今まで外部にあったデザイン部門を単に社内に取り込んだということではなく、デザイナーの役割や評価指標も大きく変えています。富士通の変革にどれだけ貢献したかが我々の評価指標になっています。例を挙げるとデザイン思考の社内における認知度はどうか、デザイン思考でどれだけ社員の行動変革につながったか、デザイン思考のレベル1~3までのスキルをそれぞれ何人の社員が身に付けたか、さらにデザイン思考による新規事業の数はどうか、などがあります。

 デザイン思考を社員に植え付け、変革を起こすことがデザイナーに求められています。20年度から22年度までの3年間で営業やシステムエンジニア、さらにハードやネットワーク、サービスをつくる事業部門、また法務や人事といったコーポレート部門など、グループ全体で13万人の全社員を対象としています。

 基礎的な内容のレベル1については、21年1月からeラーニングのコンテンツを活用し、3月末までに約6000人の社員が受講しています。また、デザイナーが営業や事業開発といったビジネスの現場に参加することで、各部門の社員にはOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)でレベル2のスキルが身に付きます。既に200~300人がデザイン思考による仕事のやり方を実践し始めています。

富士通の全社DXプロジェクト体制
注:富士通の資料や取材を基に編集部で作成

 実は今まで富士通の人事制度としては「デザイナー」という職種がなく、富士通デザインのデザイナーは「研究開発」という職種でした。そこでデザインセンターの発足を機に役割や定義を明確にして、ハードやGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)などに加え、サービスやビジネスをデザインする社員も「デザイナー」と呼ぶことにしました。デザイナーの在り方も変わらざるを得ませんが、それだけ会社からの期待の高さを表していると思っています。

ニーズの先を見通しアイデアを出す

営業などは顧客との接点があるためデザイン思考のスキルが役立ちそうですが、技術者などはどうでしょうか。

サーバー開発の技術者など事業部門の社員はお客さまと接する機会が少なく、通常は営業やシステムエンジニアがお客さまと相対します。技術者が市場ニーズを知るためには、データを分析したり営業やシステムエンジニアから聞いたりするのが一般的です。ただ、それだけではお客さまのニーズをつかみにくくなっています。

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