富士通が挑む13万人のDX経営

富士通は全社的なDX(デジタルトランスフォーメーション)に、なぜ取り組んでいるのか、なぜデザイン思考を重視しているのかを、執行役員常務 CIO(最高情報責任者)兼CDXO(最高デジタル変革責任者)補佐の福田譲氏に聞いた。企業変革のプロジェクトでありながらデザイナーを活用し、デザイン思考を社内に浸透させる役割のほか、社員視点による「共感力」を生かし、プロジェクトを推進するうえでの意見も聞いているという。

前回(第1回)はこちら

「企業文化を素早く変える方法として、デザイン思考が使いやすいと判断した」と語る執行役員常務 CIO兼CDXO補佐の福田譲氏
「企業文化を素早く変える方法として、デザイン思考が使いやすいと判断した」と語る執行役員常務 CIO兼CDXO補佐の福田譲氏
福田 譲(ふくだ ゆずる)氏
富士通 執行役員常務 CIO兼CDXO補佐
1997年にSAPジャパンに入社、23年間勤務し、2014~20年の約6年間、社長を務める。20年4月、富士通に入社、CDXO(最高デジタル変革責任者)を兼務する社長を補佐し、CIO(最高情報責任者)として社内ITを統括。日本型DXの探索・実践とフレームワーク化に取り組んでいる。「日本を、世界をもっと元気に」がパーパス

なぜ、デザイン経営に取り組んでいるのでしょうか。

デジタル時代を迎え、企業は大きく変わってきています。米グーグルや米アマゾン・ドット・コムは、単なる検索サービスやネット書店の域を離れ、さまざまな事業に乗り出しています。米アップルはiPhoneの製造・販売だけでなく、音楽産業を変えてしまいました。米テスラは電気自動車はもちろん、クリーンエネルギー事業も手掛けています。自動車会社が電力会社のライバルになると、誰が予想したでしょうか。

 これまでの企業は、同じ業界のライバルを気にすれば十分でした。しかし、デジタル技術により不可能だったことが可能になるため、違う業界の企業も競争相手に浮上します。

 まさにパラダイムシフトが起こっており、今までの価値観やルール、常識が変わるなか、企業には従来とは異なったマインドセットが求められています。業務のやり方や働き方、組織や人事、予算の考え方、評価、上司と部下の関係、さらに企業文化まで含め、あらゆる面を新しい時代に応じて、それをDXと呼ぶなら、富士通もDX時代に応じて見直さなければなりません。そのためのベースとなる社員のスキルを考えたとき、デザイン思考の重要性を感じました。

【特集】富士通が挑む13万人のDX経営
【第1回】 13万人がデザイン思考 富士通「全社DXプロジェクト」の全貌
【第2回】富士通のDX担当役員「デザイナーには企業変革のデザインを」 ←今回はココ

 多くの日本企業と同様、富士通も過去の成功体験から考える業務スタイルが中心です。この場合は、将来は現在の延長線上にあるとして、「Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)」といった、PDCAサイクルを回せばよかったのです。これは既存事業を継続し、成長させるには極めて有効な手法です。

 しかし将来が見通せず混沌としている場合は、状況を観察して議論しながらアイデアを出し、仮説を立てて試行錯誤しながら軌道修正をかけていくといったデザイン思考のやり方が適しているのではないでしょうか。

 たとえ失敗しても、そこから学んで新しいものを生み出せばいい。新規事業の探索などにも適しており、米国で成長している企業の多くは、こうした手法で事業を運営しています。

 そこで富士通もデザイン思考のスキルを13万人のグループ全社員に身に付けさせ、社内にデザイン経営を浸透させようとしています。デザイン経営というと、デザイナーが格好いいデザインの商品を開発することが目的で、一般社員の業務とは関係ないと思う人もいるかもしれません。当社のデザイン経営は、デザイン思考のスキルを活用し、DX時代にふさわしい企業に生まれ変わることが目的です。

デザイナーは共感力が高い

デザイナーを巻き込んで進めていますが、その理由は?

20年7月に富士通デザインを統合したので、デザイナーにはデザイン思考で富士通を変えてほしいと思いました。富士通の全社DXプロジェクトである「フジトラ」にもデザイナーが参加しており、デザイン思考を社内に浸透させるという重要な役目を担ってもらっています。プロダクトやグラフィックのデザインではなく、企業変革をデザインしてくださいとお願いしています。

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