
イノベーションを継続的に生むためには、アイデアを生み出す母数が多い方がいい。ソニーは新規事業創出プログラム「SSAP」の社外への“開放”を決断。オープンイノベーションを加速させている。特集第2回は、京セラとライオン、そしてソニーが挑んだ実際のプロジェクトから、ソニー流オープンイノベーションの神髄に迫った。
イノベーションの種を素早く発芽させる仕組みとして、また起業家人材を育成する目的で、社内プログラムとして2014年にスタートしたSAP(現SSAP-Sony Startup Acceleration Program)。バンド部分にスマートウオッチ機能を詰め込んだウエアラブル端末「wena」など、7年間で17ものプロジェクトを事業化しながら、支援プログラム自体も進化してきた。第1回の記事でも記したように、失敗の情報を蓄積することで、「100%成功する仕組みはつくれないが、失敗する確率は大幅に減らせるようになった」と、SSAPを率いるStartup Acceleration部門 副部門長の小田島伸至氏は自信を見せる。
そのノウハウの蓄積は、数字からも垣間見える。例えば、象徴的なのが「REON POCKET」の事例だ。本体に接触する部分の体表面を直接冷やしたり温めたりできるウエアラブルサーモデバイスで、19年4月に正式にプロジェクトが起動すると、僅か3カ月後の19年7月にはクラウドファンディングを敢行し、20年3月には商品を出荷。同年7月には一般販売にこぎ着けるという脅威のスピード事業化を果たしている。「14年に始めた頃は商品の市場投入まで1年6カ月以上はかかっていたが、最近では1年ほどで出せるようになった」(小田島氏)というのだ。
このノウハウを生かして、SSAPが次に挑んでいるのがオープンイノベーションだ。
ソニーは18年、SSAPのプログラムの外部開放を始めた。アイデア創出から事業化まで、SSAPで培ったノウハウをパッケージ化し、サービスとして提供するものだ。ゲームやオーディオ、デジタルカメラ、モバイルなど、ソニー社内だけでなく、社外の企業やベンチャー、NPOなどでも実戦を積んだ多様なメンバーがアクセラレーターとして伴走していく。
国内において、オープンイノベーションへの取り組みはここ最近、急速に盛り上がっている。社内外のさまざまな知見を集めることで、従来にはない発想を持った新規事業を生み出せるという期待からだ。だが、現実は厳しい。社内調整に手間取り、意思決定のスピードが上がらなかったり、企業間の熱量の違いによって遅々として進まず道半ばで頓挫したり、事業化には至らないケースも目立つ。そこにソニーは風穴を開けようとしている。
4つのフェーズに分類して、アイデアの事業化を支援
オープン版SSAPの仕組みはこうだ。具体的には、ソニーのSSAP部隊が起業のノウハウと環境を4つのフェーズに分けてサポートしていく。その4つとは、アイデアを創出し可視化する「Ideation」、事業化を進める「Incubation」、アイデアを世に出す「Marketing」、事業としてスケールさせる「Expansion」だ。
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