ダイナミックプライシングの価格体系は「誰が買うかによって価格が変わるもの」と「いつ買うかによって価格が変わるもの」、「よりダイナミックに価格が変わるもの」と「固定ではないが、あまりダイナミックに価格が変わらないもの」の4象限で分けられると、メトロエンジン(東京・港)の小阪翔チーフデータサイエンティストは明かす。
ダイナミックプライシングという言葉が一般的になってきましたが、実はいくつかの型があります。固定価格ではない料金体系がすべてダイナミックプライシングという言葉に包含されることによって、性質の異なる料金体系が一緒くたに語られてしまっているのです。今回は、ダイナミックプライシングに包含されている「4つの料金体系」について説明していきます。料金体系をこの4象限で分けると、整理がしやすくなります。
上の図で説明しましょう。左は「誰が買うかによって値段が変わるもの」。右は「いつ買うかによって値段が変わるもの」です。上に行くと、「よりダイナミックに値段が変わるもの」。下に行くと、「固定価格ではないが、あまりダイナミックに値段が変わらないもの」です。これらのうち、「パーソナルプライシング」「稼働率駆動型」「競合価格追随型」「グラデーション値下げ」の4つが、現在ダイナミックプライシングと呼ばれることが多い価格体系です。ダイナミックプライシングを定義するよりも、「今はこのあたりがダイナミックプライシングと呼ばれているんだな」と捉えるほうが実用的で理解がしやすいでしょう。
(1)パーソナルプライシング
まずはパーソナルプライシングです。EC(電子商取引)サイトなどで実験的に実施され始めています。まさに「誰が買うと値段が変わるのか」の最たるもので、過去の購入履歴や閲覧履歴から、アカウントごとに別々の料金が表示されます。事業者の売り上げを向上させる手段として計算上は成り立つ料金体系ですが、いろいろと問題が多く、まだ社会実装はそこまで進んでいません。ここでは2つの問題を紹介します。
1つ目の問題は、ロイヤルカスタマーほど高い値段で買うことになる点です。あるモノやサービスに対してどの程度お金を払ってもいいと考えるかをWTP(Willingness to Pay:支払意思額)と言います。このWTPはロイヤルカスタマーやリピーターほど高くなる傾向にあります。初回限定割引のような形で初回購入が安くなることは一般的に受け入れられているものの、ブランドを愛してくれているファンや会員に対してWTPが高いからといって高い値段を提示するのは多くの反発を招く恐れがあります。これが導入ハードルを高めている要因です。実際に、米アマゾン・ドット・コムが2000年にアカウント単位で68タイトルのDVDの値段を20~40%の変動幅で変えたところ、利用者から批判が集まり、ジェフ・ベゾスCEO(最高経営責任者)が「変動価格テストをしていた」と謝罪したことがあります。
もう1つは、倫理的にどこまでの情報を使って個人別の価格設定をしていいのかという問題です。購入履歴や閲覧履歴は許容できるとしても、性別、年齢、人種、宗教などの顧客属性をもとにパーソナルプライシングをすることは許されるべきではないと考える人も多いでしょう。顧客属性をアカウント情報として登録させない、もしくは企業が顧客属性をパーソナルプライシングに使うことを禁止すればいいんじゃないかと思う人もいるかもしれません。しかし、購入履歴や届け先から顧客属性を類推できる可能性はあり、AI(人工知能)がデータを読み解いた結果、顧客属性によって価格が異なることになった場合、倫理的問題に発展することはありえます。
現在、中国ではパーソナルプライシングは「殺熟」と呼ばれ、多くの批判がありながらも売り上げを向上させる施策の1つとして、旅行予約アプリやフードデリバリーアプリで行われています。これらの問題がどう着地していくのか、興味深いところです。
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