「マーケティングの万能薬は存在しない」。そう主張するのは、トライバルメディアハウス代表取締役社長の池田紀行氏だ。同氏は2022年6月に著書『売上の地図 3万人を指導したマーケティングの人気講師が教える「売上」を左右する20のヒント』(日経BP)を発刊した。筆を執った理由は、多くのマーケターが万能薬を求める傾向にある現状に注意喚起するのが目的だったという。noteプロデューサーの徳力基彦が、そうした安易な発想から脱却するための方法について議論を交わした。
徳力基彦(以下、徳力) 池田さんの著書『売上の地図』は業界でも大きな話題になっています。なぜこの本を書こうと思われたのでしょうか。
池田紀行(以下、池田) 僕はマーケティングが大好きなので、すべてのマーケティングをずっと追いかけながら、実践・活用できるものは現場で使い続けてきたという自負があります。マーケティングの世界は環境変化と共に「何々はもう古い、これからはこれだ」というように新しいキーワードや概念が次々と出てきます。
トライバルメディアハウス代表取締役社長
本来はマーケティング職を志す、すべての人が考えているのは「売り上げを上げたい」であるはずですが、その際、どのようなインプットを施すことによって、売り上げというアウトプットを増やすかだけを考えてしまうんです。インプット、つまり何がしかの施策は、僕の言葉で言うと「薬」。何の薬を飲むと、病気が治るのかということをやっているのとすごく近いと思っています。
広告やマーケティングやPRの業界はさまざまな「薬」がはやります。例えば「バズマーケティング」という薬がはやると、自社のマーケティング課題と照らし合わせることなく、バズマーケティングという薬を求めるようになりがちです。自分の病気が分からなければ、どの薬を飲むのが効果的か分からないはずなのに、なぜか自社の課題を把握せずに、はやっている施策を実施したがります。
「この薬を飲みさえすれば、あらゆる課題が解決されて、あまり苦労せずに小予算でも売り上げが上がるだろう」というふうに思考停止しがちです。だから僕は15年前から一貫して、薬に目がくらんでインスタントな手法に飛びつくことは危険だと注意を促してきました。
誰もが、「できる限り予算をかけずに、それでいてすぐに効果が出る、競合他社がやっていない先行的な事例をやりたい。でもリスクは取れない」と思っています。でも、そんな施策があったら競合がとっくにやって成果を出しています。この世に魔法のつえなんてありません。成功している企業というものは、当たり前のことを高いレベルでやり続けている、本当にただそれだけなんです。
多くの企業のマーケティング課題を解決できる新たな発想が登場したとき、競合他社に先駆けて取り組みを実施し、それが成功したときに、競合を出し抜いて自社の売り上げが上がるのが「戦略優位」です。逆に、競合が既に取り組んでいることを、そのまま取り入れたのでは勝つことはできなくなります。ところが、競合各社がやっていて、自社だけがやっていない状態になると「戦略不利」になります。これを繰り返しているのがマーケティングの歴史だと思います。
より少ない予算で、多くの持続可能な売り上げを獲得していくためには、競合よりも早く、いままでのマーケティングではできなかった自社の課題解決につながる施策に挑戦していくことが必要です。リスクも大きいですが、果実をとれる確率は上がります。
売り上げをつくるのは「シュート」だけではない
マーケティングをサッカーに例えた場合、売り上げに影響を与える要因は「シュート」だけではありません。ありとあらゆる施策が構造的につながっています。パスをつなぐ人たちがいて、最後にフォワードにパスがわたることで、シュートするチャンスが生まれる。それが売り上げ獲得になるわけです。にもかかわらず、多くの企業はすべての施策はフォワードによるシュートだと思っています。
この記事は会員限定(無料)です。
- ①2000以上の先進事例を探せるデータベース
- ②未来の出来事を把握し消費を予測「未来消費カレンダー」
- ③日経トレンディ、日経デザイン最新号もデジタルで読める
- ④スキルアップに役立つ最新動画セミナー