東京スポーツ新聞社(東京・江東)は2020年からSNSを強化。ジャンルごとのアカウントや記者のアカウントを増やし、フォロワー数の合計は2年で約6倍に増加した。一方、靴下ブランドを展開するタビオ(大阪市)は記事配信サービス「note」を活用するうえで、あえて“属人化”させる戦略をとる。各社のSNS戦略について、東スポnote編集長の森中航氏とタビオ靴下屋事業部の田口裕貴氏とnoteプロデューサーの徳力基彦が議論した。

note(東京・港)のnoteプロデューサー/ブロガーで著者の徳力基彦(左)、タビオ(大阪市)の靴下屋事業部の田口裕貴氏(中央)、東京スポーツ新聞社(東京・江東)の東スポnote編集長 森中航氏(右)
note(東京・港)のnoteプロデューサー/ブロガーで著者の徳力基彦(左)、タビオ(大阪市)の靴下屋事業部の田口裕貴氏(中央)、東京スポーツ新聞社(東京・江東)の東スポnote編集長 森中航氏(右)

徳力 基彦(以下、徳力) まずはSNSの利用状況についてお教えください。東スポnote編集長の森中さん、いかがですか。

森中 航氏
東京スポーツ新聞社 東スポnote編集長
東京スポーツ 編集局デジタルメディア室記者。事件、経済、特集記事など、スポーツ以外の分野を取材。2021年2月にnoteの開設を命じられ、1人で東スポnote編集長となり、社員を巻き込み奮闘中

森中 航(以下、森中) 東スポは2020年7月にデジタルシフトを本格化しました。Twitterのアカウントは複数ありましたが、担当などが明確に定まっておらず、SNSをどう活用して、リーチをとるかなどは全く考えていなかったんです。

 そこで、デジタルシフトの本格化に合わせて「野球」「プロレス」「競馬」といったスポーツのジャンルごとのアカウントの他、記者個人のアカウントを増やしました。増やすに当たっては、プロレス解説をしている先輩に頭を下げてお願いするなど、専門知識を持つ社員の力を借りました。

 東スポ本体の公式アカウントがこれらのジャンルのアカウントから発信された情報をリツイートすることで、タイムラインがバラエティー豊かになりました。堅いニュースばかりのアカウントとして見られないことを意識しています。

 他にも、「note」、音声配信メディア「Voicy」、短尺動画サービス「TikTok」などの活用も始めています。東スポが利用するのはなぜかと思われるかもしれませんが、あらゆるところに生活者との接点をつくって、どのSNSでも東スポの情報に触れられる機会を増やすことを目指しています。そうした結果、Twitterのフォロワー数は強化前の5万人から、現在では約30万人まで増えています。

東スポはさまざまなジャンル/記者のアカウントを開設。競馬を題材にしたゲーム「ウマ娘」の人気を受け、競馬のアカウントでは馬の写真が喜ばれたり、プロレス担当の岡本佑介氏がつぶやくアカウントが東スポ関連アカウントのフォロワー数で3位に入ったりするなどバラエティーに富んでいる。グループ全体のフォロワー数はSNSを強化し始めてから2年で約6倍に増えた
東スポはさまざまなジャンル/記者のアカウントを開設。競馬を題材にしたゲーム「ウマ娘」の人気を受け、競馬のアカウントでは馬の写真が喜ばれたり、プロレス担当の岡本佑介氏がつぶやくアカウントが東スポ関連アカウントのフォロワー数で3位に入ったりするなどバラエティーに富んでいる。グループ全体のフォロワー数はSNSを強化し始めてから2年で約6倍に増えた

あえて“属人化”させるタビオのSNS戦略

徳力 タビオの田口さんはいかがでしょうか。TwitterとInstagramがメインの発信チャネルでしょうか。

田口 裕貴氏
タビオ 靴下屋事業部
タビオに営業職として入社。靴下屋の営業職、ECサイトにおける広告運用・SNS運用を経て、17年10月に企画室勤務。20年より靴下屋事業部 SNS担当

田口 裕貴(以下、田口氏) そうですね。TwitterとInstagramをメインに使い、補助的にnoteと「YouTube」を活用しています。特にインスタはスタッフがこだわりを持って投稿しています。ちなみに当社は2つのブランドを展開しており、「タビオ」が百貨店を中心に展開するブランドで、「靴下屋」はファッションビルやショッピングセンターに出店しているブランドになります。

 Twitterは現在、約6万人のフォロワーがいます。増やすための施策としては、フォローやリツイートを応募条件に、抽選で景品が当たる懸賞が中心です。ツイートはうざいくらいに(笑)。1日30投稿くらい、多い時では50ツイートぐらいしています。フォロワーが減る危険性もありますが、反応を調べるための観測気球的な意味合いも含まれています。

 フォロワーが増えると、投稿に対する注目が集まりメッセージも伝わりやすくなります。結果的に、ツイートがバズる(話題になる)とネットのニュースメディアなどに記事で取り上げられるということが、この2年くらいで増えています。

徳力 「メディアに取り上げられる」とおっしゃいますが、田口さんのツイートがうまいからだと思います。意識されていることはありますか。

田口 取り上げてもらうことを目的とするより、フォロワーの気持ちになり、「自分だったらシェアしたくなる」を基準に投稿しています。大原則としてフォロワーがその情報を知って、得したという気持ちになってもらえれば成功で、ついでに売れればいいという心構えです。その人の生活が豊かになればアカウントに対するポジティブな気持ちも増えて、投稿もより注目してもらえます。それによって、投稿で紹介した商品を買ってくれる率がちょっと上がります。

 noteの活用法としては、“属人化”を進めています。これは僕よりも、社員で通称「ゆうなって」と「ひなたぼっこ」の2人がうまく使っています。記事がnoteの「今日の注目記事」に選ばれることもあります。会社のメッセージよりも、情報を発信する2人を好きになってもらい、誰から買うかの「誰」をしっかりつくることが目的です。

徳力 個人や部署のキャラが出る場所としてnoteが使われているということですね。このあたりの使い分けは企業によってパターンが違ってくると思いますが、東スポさんはTwitterとnoteはどのように役割分担をされていますか。

森中 情報発信としてはTwitterがメインですが、noteは文字数が多いため、しっかりと読んでもらえる特性があると思っています。noteはもともと、「文庫本をつくる」というところからスタートしました。

 Web版の東スポはニュースサイトなので、情報の流れが速すぎる面があります。今、起きていること一色です。さらにランキングなども表示され、訪問者は情報の目移りがしやすい空間でもあります。noteはそういう空間とは別で、過去の記事を引っ張り出すのが面白いのではないかということで、ここに東スポ流の文庫本を置いたらどうなるんだろうという実験的な部分が強いです。

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