世の中のデジタル化が加速する中、どのように情報発信をしていくか、発信において何をKPI(重要業績評価指標)に設定すべきかが重要な課題になっている。今回は、東京都の宮坂学副知事、東京都デジタルサービス局の西田純氏を招き、noteのアカウント「#シン・トセイ 都政の構造改革推進チーム」を中心に、noteプロデューサーの徳力基彦が東京都の行政の広報のあり方などについてくわしく話を伺った。

東京都副知事の宮坂学氏に行政のSNS活用の真髄を聞いた
東京都副知事の宮坂学氏に行政のSNS活用の真髄を聞いた
宮坂 学氏
東京都 副知事
1997年6月、ヤフー株式会社に入社。同社CEO・代表取締役・取締役会長等を歴任し、2019年6月に退任。同年7月より東京都参与に就任し、同年9月より現職。東京都のDX(デジタルトランスフォーメーション)や国際金融都市をはじめとする東京の成長戦略を推進している。

徳力基彦(以下、徳力) 「シン・トセイ」のnoteは2020年に始まりました。まずはその取り組みや、シン・トセイができた背景について宮坂さんからご説明いただければと思います。

宮坂学(以下、宮坂) 世界の6割の人がインターネットを使い、半数以上のインターネット利用者がソーシャルメディアを利用しています。しかし、行政のデジタル化は遅れており、昭和型の仕事様式のまま令和の時代を迎えてしまいました。だからこそいま都庁は、リアル都庁からバーチャル都庁への引っ越しを進めています。行政のサービスもバーチャルで行い、職員もバーチャルで働けるようにします。もちろんリアルも残し、リアルとバーチャルの二刀流で対応できるようにしていきます。

 デジタルサービスを氷山にたとえると、海面の氷山が見える部分、つまり都民が実際に利用する幅を広げ、その品質を上げていきたいと考えています。そのためには目に見えない水面下の部分を整えなくてはなりません。人事制度や技術評価制度の仕組みや、UI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザー体験)のガイドラインをつくるなどの改革が必要です。この実行部隊が「シン・トセイ」です。

デジタルサービスを「氷山」に例えると、海面の都民が利用するサービスの品質を高めるためには、海面下の精度やシステムの改革が必須になる。これを推進するプロジェクトが「シン・トセイ」
デジタルサービスを「氷山」に例えると、海面の都民が利用するサービスの品質を高めるためには、海面下の精度やシステムの改革が必須になる。これを推進するプロジェクトが「シン・トセイ」

 シン・トセイというネーミング案は現場の若手職員から挙がってきました。こういう名称にすると批判も出てくるのではないかと思いましたが、覚えてもらわないことには批判をいただくことすらできません。それも含めて1つの情報発信ですから、勇気を持って発信しようということでこの名称に決めました。シン・トセイでは、ポータルサイトやSNS、noteなどで情報を発信し、都民との双方向でのコミュニケーションで改革を進めています。

都民の意見を吸い上げ、反映するための双方向コミュニケーションを意識した、情報発信を進めている
都民の意見を吸い上げ、反映するための双方向コミュニケーションを意識した、情報発信を進めている

noteでの情報発信をどのKPIで計測するか

徳力 シン・トセイのnoteを運営されているのが西田さんです。22年1月に公開された「都政の構造改革note、データドリブンで考えるこれまでの振り返りとこれからの目標」という記事のなかで、シン・トセイチームが1年間noteを運用して、分かったことを書かれています。この記事の内容についてお話しいただけますか。

西田純(以下、西田) 20年10月にシン・トセイのnote開始から1年がたったタイミングで、振り返りをしようということでこの記事を書きました。

西田 純氏
東京都デジタルサービス局戦略部デジタル改革課主任
2015年4月、東京都入庁。産業労働局総務部企画計理課、同局観光部企画課、総務局人事部人事課を経て、21年4月より現職。都政の構造改革推進チームの総括担当として事業を推進しながら、職員の顔が見える情報発信を心掛け、「note」の記事を作成している。

 まず最初に、都政の構造改革のnoteで目指すことを言語化しました。noteでの発信を通じて構造改革の「ファン」をつくり、そのファンの力を改革の推進力にしていくということが私たちが目指すことなのではないかと考え、都民、職員のみなさまとの「双方向コミュニケーション」ということを重視しています。

 次に、記事の閲覧数を示す「ビュー」、読者がハート型ボタンを押して記事を評価する「スキ」、アカウントの「フォロワー数」のこれまでの推移について、2カ月ごとの数字をグラフにして振り返りました。転機になったのは、『「シン・トセイ」、始まります。』という記事です。この記事が話題となって、いずれの数値も増えました。

「シン・トセイ」のnoteのアカウントで測定している3つの指標の推移
「シン・トセイ」のnoteのアカウントで測定している3つの指標の推移

 そして、構造改革のファンをつくる、という目的を設定したとき、これら3つの指標のうちどれをKPIとして進行管理していくか考えました。ビューは認知度を測ることはできても、ファンになっているかどうかはわかりません。フォロワー数は直接ファンの数を測れる指標ですが、noteのアカウントを持っていないとフォローできません。そこで私たちが注目したのが、noteのアカウントを持っていなくてもボタンを押せるスキです。スキの数によって、記事への共感や好感を効果的に測れると考えました。

 さて、ここからが分析の肝ですが、1週間ごとに見たビュー、スキ、フォロワーの数字を並べてプロットし、その相関関係を分析しました。その結果、スキが増えるとフォロワーの増加につながりやすい傾向が明らかになりました。一方、ビューが増えてもフォロワーの増加にはつながりにくいということが分かりました。

1週間ごとのビュー、スキ、フォロワーの数字を並べてプロットし、その相関関係を分析し。その結果、スキが増えるとフォロワーの増加につながりやすい傾向が明らかになった
1週間ごとのビュー、スキ、フォロワーの数字を並べてプロットし、その相関関係を分析し。その結果、スキが増えるとフォロワーの増加につながりやすい傾向が明らかになった

 統計的に見ると、やはり広く共感される記事をつくることで、スキが増えてフォロワー数が増え、結果的に広く読まれるという循環が生まれます。どんな記事にスキがつきやすいのかも分析しており、「インパクトは大事」「ニッチだけど……」「顔が見える」などをキーワードに22年度末までに累計で1万スキの獲得を目標としています。

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